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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




163 36年目の卒業式 〜ビートルズと僕〜(3)

 人生の岐路は、人によっては何十年も続く。

 たとえば地方公務員や教職員などのような安定した職業の方にとって、人生の岐路は、ある時期のある一瞬に現れる分岐点に過ぎないかもしれないが、僕はマンガ家という稼業を選んだために、毎日とまでは言わないまでも、日々滞りなく岐路が訪れてきた。そして、それはおそらく死ぬまで続くに違いない。マンガ家には、一般的な意味での定年がない。業界から用済みになるか、能力の限界を自覚したときが定年である。それは、デビュー後半年もしないうちに訪れるかもしれないし、死ぬまで訪れることがない可能性もある。別の言い方をすれば、マンガ家である限り、二度と同じ仕事はなく、常に失業と隣り合わせの稼業であるということでもある。その意味で、絶えず前に進む以外に道はなく、過去や思い出に浸っている暇などないのである。

 そうやって、僕は何かにつけ、入学と卒業を繰り返してきた。
 もちろん、能力不足で卒業できず、中途退学したものもたくさんあるが、ビートルズについては、すっかり卒業したつもりになっていた。だが、先週書いたように、ポール・マッカートニーの来日公演のニュースをTVで見た瞬間、僕はビートルズの卒業式に出席した記憶もなければ、卒業証書も見あたらないことに気がついたのだ。つまり、僕は生のビートルズを観るという、少年の頃の夢を未だ果たしていない。なのに、今回の来日が、ポール最後の日本公演になるだろうという専らの噂であり、プログラムの2/3近くが、ビートルズの曲で占められているという。

 僕は、即座に“卒業式に出席しなければならない”と思った。


2002年12月18日掲載

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