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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




168 36年目の卒業式 〜ビートルズと僕〜(8)

 当時の僕は、プライヴェートにポップス・ベストテンを付けることが大好きで、それを近所の友人と交換日記よろしく見せ合っては楽しんでいた。
 ところが、ある日、「アウォナホージュヨーヘン〜〜〜」と絶叫する、当時としては滅茶苦茶騒々しく、パワーに満ち溢れた音楽がラジオから流れてきた。その日を境に、僕の個人的なベストテンは、まったくつまらないものに変質してしまうことになる。
 その曲こそが、日本でのデビューとなる、ビートルズの「抱きしめたい」(I want to hold your hand)であるが、要するに、その曲以降、僕のベストテンは全てビートルズの曲で埋め尽くされてしまうことになるのだ。それでは、ベストテンを付ける意味がない。とにかく、ビートルズの曲さえあれば、三度のメシも要らないような、そういう時代が何年も続くことになってしまうのである。

 その曲たちを、いま、作り手張本人であるポールが、当時の赤くて透明なレコードを再生するように、僕の目の前で次々に歌っていく。日本(中国?)風に言うと、還暦を迎えたポールは未だ十分若く、喉も健在だ。伴奏としてのギターも驚くほど上手い。もちろん、ジョンもジョージもリンゴもいないから、完全なビートルズとは言えない。それでも、少年の時代には信じられない、夢のような体験である。

 ならば、なぜポールの公演をこれまで見過ごしてきたのか?

 だから、僕はビートルズを卒業したのである。
 その後、僕はジャズやブルースやクラシック音楽など様々な音楽に目覚め、ビートルズを聴くことは滅多になくなった。ビートルズを必要としなくなったのだ。
 決して聴き飽きたわけではない。
 卒業したのである。
 いや、すっかりそのつもりでいたのである。

 しかし、TVでポールの公演のニュースを見て、「卒業式」に出た記憶がないことにふと気がついた。そこで、もう二度と行われないかもしれない「卒業式」に慌てて出席することにした。出席すると、少年の日に主食となり、栄養を無限に供給してくれた曲たちが、30〜40年近い歳月を経た今もなお、栄養を与えてくれていることに改めて感動し、僕の中でビートルズが更に永遠になったことを実感した。

 今度の公演を記録したDVDが発売されたら、たぶん買うだろう。
 買ってもほとんど見ないかもしれないが、いいのだ、それはまさしく卒業記念アルバムなのだから。


2003年01月29日掲載


2003年01月29日掲載

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