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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




176 I Love Beer!

 無いと「暴れ」たくなる食材は、もちろんネギだけではない。
 僕の場合、ビールがそうだ。
 やっと仕事が終わり、どたどたと階下に降りてって、さあビールで喉を潤すぞと思って冷蔵庫を開けたら、買い置きが切れていた、なんてことになると、僕はひどく不機嫌になり、暴れ出す。

 ……というようなことは、もちろんないが、僕は世の中の飲み物や食べ物の中で、もしかしたら、ビールが一番好きだと思っているかもしれない。かもしれないと書くのは、その時々で“一番”が変わる可能性が大きいからだ。たとえば、寿司を食べれば、寿司を一番と思うかもしれないし、ステーキを食べているときには、ステーキが一番だと思いがちだろう。逆に、寿司を食べているときに、わざわざステーキが一番というふうには思いにくいものだ。

 だが、僕はビールを飲む機会が多い。
 寿司もステーキも、毎晩食べるわけにはいかないが、ビールは夕食時にはほぼ必ず飲んでいる。といっても、350mm缶一本だけだが。僕にとって、ビールのない夕食は、ネギのないうどん蕎麦と同じで、曰く言い難い欠落感がある。いわば、食事として欠陥不良品である。人生、死ぬまでに何万回食事をすることになるかわからないが、限られた回数しかないことだけは間違いない。ほんのちょっとの油断から、炭のように焦がしてしまったパリパリの塩鮭を、渋々おかずにする羽目に陥っても、確実に一回分は消化してしまうわけである。塩鮭などいつでも食べられるが、その時食べるはずだった、程良く焼けて、脂がジュウジュウしたたる塩鮭は口にすることが出来なかったばかりか、永遠に戻ってこないのだ。悔やんでも悔やみきれない、人生に於ける、大いなる損失である。

 ……とまで思うとしたら、ほとんど強迫神経症かもしれないが、夕食にビールを切らして飲めないようなことがあると、僕にとっては、人生少々損した気分であることは確実である。その気分は、ビール以外だとさほどでもないから、もしかしたら、世の中で一番好きな飲食物なのだろうと思っているわけだ。


2003年03月26日掲載

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