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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




185 電車に乗らずに…(1)

 もう6月になったというのに、僕は今年まだ一度しか電車に乗っていない。公共交通網が最も充実した東京に住んでいるのに、である。

 僕は仕事で電車に乗ることがほとんどない。
 それは昔からのことで、原稿授受に於けるIT化が進んだからということではない。IT化は、僕が取引先である編集部の都合も省みず勝手に始めたことで、何もしなければ、原稿は担当編集者かアルバイト、あるいはバイク便が受け取りに来るはずだ。僕はその気になれば、仕事では電車に乗らなくてもすむばかりか、生涯、家から一歩も出ない生活も可能なのである。通勤に体力の多くを消耗しているサラリーマンからすれば、大変羨ましい身分に見えるであろうが、本人にしてみれば、ただひたすら老人のように楽なだけで、別に電車に乗らないこと自体に面白味がある訳ではない。「今日は電車に乗りませんでした。とても楽しかったです」という作文が成り立たないように。

 僕の学生時代は、世の中が高度成長の真っ只中だったから、企業は今と違ってどこも人手不足で、就職に関しては完全に売り手市場だった。貧乏学生といえども、普通に就職すれば、そこそこリッチ、難なく中産階級の一員に仲間入り出来た時代である。なのに、僕は一般的な就職には目もくれないどころか、学生の身分も捨て、わざわざマンガ家という不安定を絵に描いたような職業を選んだ。
 理由は簡単だ。
 朝、起きられなかったからである。


2003年06月04日掲載

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