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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




187 三度目の憂鬱

 僕がまだ高校生で、生まれた町に住んでいた頃、町唯一の繁華街に遊びに行くと、必ずといっていいほど顔見知りに出会った。「おお、偶然やね」とか何とか、挨拶程度の話をして別れるのだが、しばらくすると、またバッタリ出会ってしまう。二度目は、お互い微笑み……というよりは苦笑に近いものを交わすだけで、話をすることなく別れる。
 二度あることは三度あって、またまたバッタリ会ってしまうことになるのだが、さすがに三度目となると、双方大いにキマリが悪いものだから、先に相手を発見したほうが、無用の出会いを避けて、横の道へさっと逃げたりしたものである。しかも、その顔見知りが、自分の親だったりする場合もあって、ガールフレンドとデートしてる場合など、何とも言えない気恥ずかしさがあった。
 当時、町の人口が20万人前後だったから、決して小さ過ぎるとは言えない町なのだが、やはり東京や大阪のような大都市の匿名性とはほど遠かった。

 僕がそんな町から東京の大学へ進学したのも、その匿名性に対する欲求が、僕の中に大きく横たわっていたからである。もちろん、自分はマンガ家なり作家なり、いわゆるクリエーターになるものだと思いこんでいたから、そういう職業イコール東京だろうという、がちがちの固定観念があったことも、上京した動機の大きな一つではある。そうした野心をポジティヴな動機だとすれば、ある意味でネガティヴともいえる動機が、その東京の持つ徹底した匿名性への欲求だ。要するに僕は、繁華街で三度も同じ顔見知りに会わなければならないような、小さすぎる町から逃げ出したかったのである。


2003年06月18日掲載

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