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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




198 アイディアの出し方(4)

 さて、「アイディアの出し方」を忘れた場合、どうやって思い出すか。

 その答えは、僕の場合一つしかない。
 いつもの仕事場の、いつもの机の前の椅子に座り、仕事モードで物が考えられるようになるまで、そこから決して離れないようにする、ただそれだけである。
 だが、それがいかに難しいかは、試験勉強を少しでもやったことのある人なら、容易にわかっていただけるだろう。机の上やその周辺には、実に様々な誘惑物がひしめいている。その一つ一つに目を奪われ、時間を空費しているうちに、確実に腹が減ってくるし、確実に睡眠を要求する時間帯が迫ってきて、なんとなくその日の挫折を予感するといったプロセスを辿るのは、マンガ家の僕もちっとも変わらない。

 しかし、時間の空費を恐れてはいけない。
 空費と書いたが、この場合の空費は実は空費ではない。何かに辿り着くまでには、どうしてもある一定の量の時間が必要なのだと僕は思っている。その時間を省くことが出来れば、作品をたくさん描けるし、フリーな時間も出来て効率がいいには違いないが、僕はこれまで、その空費としか思えない時間をどうしても端折ることが出来なかった。いつもその苛立たしいばかりで、長く空虚なだけの時間を一定程度浪費しないと、仕事に辿り着けないのである。ということは、この空費は僕にとっては必要不可欠の時間なのだと思うしかない。

 ともあれ、いつもの机の前の椅子に座り、そこから決して離れないでいると、そのうち、自分の目がどこにも焦点が合っていなくて、どこでもなく、ただひたすら中空を見つめていることに、ふと気がつく瞬間が訪れる。

 集中力を獲得した瞬間である。
 あとは必ずしも机の前の椅子に座っていなくとも、アイディアを思いつけるモードに移行するので、晩ごはんの支度を始めることも可能になる。
 要するに、「アイディアの出し方」というのは、集中力を獲得することに他ならない。ただその獲得のためだけに、僕はかなりの量の時間を浪費しているのである。しかもその時間が、年齢と共にどんどん長くなる傾向がある。由々しきことである。


2003年10月29日掲載

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