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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




202 温泉は寂しい(4)

「温泉へ行きたいなぁ」

 僕がそう漏らしたら、僕の机を挟んで原稿の完成を待つ担当編集者が、「ええーっ、若いのにずいぶん年寄りじみてますね」と言った。僕が20代半ばの頃である。
 僕は、彼がなぜ温泉へ行きたいと思うことを「年寄りじみて」いると思うのかがわからないので、「え、なんでですか?」と返した。すると、彼は「だって、温泉といったら、そういう印象があるじゃないですか」といったような返答をしたように記憶しているが、相当昔のことなので定かではない。ちなみに、彼は僕より一歳年上である。

 それから四半世紀、「年寄りじみて」いるはずの「温泉へ行きたい」は、果たして今も「年寄りじみて」いるかというと、おそらくそうではないはずだ。むしろ、今や若者が率先して温泉に行く時代になったと言っても過言ではないと思う。

 などという昔話にかこつけて、僕には先見の明があった、などと自慢したいわけではない。実を言うと、僕はそんなに風呂好き温泉好きではない。入らなくても清潔な状態が保たれるならば、喜んで無精をしたいほうである。そもそも湯船に長く浸っていられない。退屈なのだ。浴場では僕が普段やっているような一人遊び、たとえば今で言えば、パソコンで遊ぶといったようなことが何も出来ない。
 それでもなるべく長湯を心掛けるのは、悲しいかな、元をとろうとするビンボー性のせいだ。本当は、カラスの行水で済ませたいのである。そういう人間だから、これまで書いてきたように、余計に男女別湯をつまらないと思うし、僕がビンボー性からではなく、入浴そのものを楽しむには、つれあいを始めとする、その時間その空間を共有する相手の存在が必須なのである。

 なのに、どうして「温泉へ行きたい」と言ったのか。
 実は、伊豆の温泉宿を基地とする釣りをしたかったのである。


2003年11月26日掲載

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