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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




204 ヨーロッパからの賓客(2)

 自宅を仕事場とする仕事なので、僕の生活そのものは主婦のそれに近い。
 主婦の行動半径は狭……くないスーパーな方もいらっしゃるだろうが、まあ概ね狭いことが多い。同様に、僕の行動半径もすこぶる狭い。よく利用するスーパーもフィットネス・クラブもファミレスもホテルのラウンジもおよそ2km圏内にある。週に一度の専門学校が、車で片道4、50分ほど掛かるから、僕の生活の中では最も行動半径が広がる日である。が、行った先でも、動くのはせいぜい教室とトイレの往復くらいのものだ。要するに、地中の暗闇を這うモグラとそう大差ない生活を送っているわけである。もちろん、およそ「国際的」というのとは無縁である。

 そういうモグラのような狭い行動半径しか持ち合わせていない人間だから、フランス人が三人も我が家にやってきて、キッチンの前で生のフランス語をびゅんびゅん飛び交わすという光景には、正直言ってあまり慣れていないのである。もちろん、僕にフランス語など聞き取れるわけがない。話のすべては、ボワレ氏の通訳で知るのみで、その意味では、ペリーを迎えた文明開化期の武士たちに引けを取らぬくらい、根っから極東の島国人間なのである。

 もちろん、そんな僕でも海外旅行には何度か行ったし、花のパリの空気も、二息くらいは味わったことがある。だが、旅行者とモグラとでは全然立場が違う。旅行者には原則としてキッチンは必要ないが、モグラはまさにキッチンに住んでいるのだ。その、いかにも生活臭ただようモグラの巣に、遠くヨーロッパからの賓客を迎え、何やら仕事の話をするという、その一連の風景が、何やら畳の上で靴を履いているような、おかしな気分を誘うのである。


2003年12月10日掲載

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