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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




205 ヨーロッパからの賓客(3)

 何やら畳の上で靴を履いているような、おかしな気分。
 そのおかしな気分の由来を、もう少々突っ込んでみる。

 つまり、僕のように、およそ「国際的」とは無縁の生活をしている人間が描くマンガを、かの国々のコミック作家や編集者が高く評価してくれているらしいということ。そして今回、旧作の翻訳出版だけでなく、新たに6カ国語(英、仏、独、伊、スペイン、日本語)版の長編描き下ろしをやらないかという提案を受けたこと。そういうことの一つ一つが、何やらおかしな気分を誘うのだ。なぜなら、僕は日常の大部分をこのキッチンで過ごす、別に引き籠もっているわけではないが、毎日となると、そうそう外出するための用も思いつかないし、しょっちゅう出かけてばかりでは、仕事にならない。結果、ある意味で、社会的にはあまり存在の見えにくいモグラのような存在だろう。しかし、作品だけは海を越えていく。その作品は、こんなキッチンを持つ家の二階で、人知れず描かれている。ミクロとマクロ、何やらとても逆説めいている。

 さて、翻訳出版に関するひと通りの説明を終えた一行は、「よろしく」との挨拶をして、玄関へ向かい、靴を履き始めた。だが、やけに時間が掛かっている。三人全員そうである。

「そちらの方は、こんなふうに、滅多に靴を脱ぐことはないですからねぇ」  そう僕が言ったら、ボワレ氏が、
「(フランス人は)みんな靴を履くのが下手くそ。僕も日本に何年もいるけど、未だに慣れない」と応えた。
 ちなみに、ボワレ氏は日本語を喋るのはもちろん、漢字まじりの日本語を読むのも書くのも、どうかしたらネイティヴの日本人よりも上手である。そのボワレ氏にしても、脱いだ靴をさっと履くのは難しいことのようだ。


2003年12月17日掲載

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