* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


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208 マンガ家の行動範囲(2)

 もっとも、正確に言えば、訪ねたことのある出版社はもう一社ある。
 僕が生まれて初めて出版社に原稿を持ち込んだのは、まだ20歳まで数ヶ月を残す頃で、向かった先は『月刊ガロ』というマイナー且つカルトな雑誌を、万年赤字と闘いながら出し続けていた青林堂という出版社である。ここの社屋は古い木造の小さな民家で、通りすがりの人だと、まさかこの建物の中で出版事業が営まれているとは思いもよらぬであろう、そんな普通に僕らがイメージする出版社からは大きく懸け離れたものであった。

 そこで僕が原稿を見ていただいた相手というのが、これまた社屋に劣らずしょぼくれた感じの、たとえば下町の駄菓子屋の店主なんかが似合いそうな初老のオッサンで、僕らが勝手にイメージする編集者のそれからはほど遠かった。だが、このお方こそ長井勝一さんという、当時の『ガロ』編集長であり、青林堂社長である。もうとっくに亡くなられてしまったが、当時のカウンターカルチャー・ブームの中にあって、マンガを語る際に避けては通れない、知る人ぞ知る有名人であった。

 その有名人に、僕の原稿はあまり気に入ってもらえなかった。
「僕らがイメージする」と再三書いているように、当時上京したばかりの無知で田舎者で傲慢で青二才だった僕は、いま思えば、物事の大半をそういった極めてステレオタイプなイメージで判断し、決めつけていたに違いなく、その浅薄さは作品にはもちろん、僕の言動にも当然表れる。そして、僕の目の前にいる、とりわけ「本物」を見分けるのに長けた気骨ある有名人が、それを見過ごすわけはなかった。


2004年01月14日掲載

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