* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


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210 マンガ家の行動範囲(4)

 マンガ家になり、朝の満員電車に乗らなくていいということで幸福を感じられるのは、せいぜい最初の一ヶ月くらいであろうか。それが常態になってしまうと、余程しみじみ思い詰めてみるとか、満員電車に関するネガティヴ・キャンペーンでも張って優位に立たない限り、その幸福感は蘇ってこないものである。
 更には幸福感どころか、ふと気がついたら、外に用が無くなってしまった人間の疎外感ばかりを強く感じてしまい、ひどく不幸になってしまうマンガ家だっているはずだ。別に孤独を感じるわけではないから、それとはまた別の感情だろう。なんだか人生がどんどんつまらなくなっているような……という感覚が一番当たっているかもしれない。ある時期、僕もその一人だったことがある。

 その頃の僕は、マンガ家という仕事ゆえに得られにくい行動パターンを、どの職業だったら実現することが出来るか、などということをとりとめなく考えたものだ。つまり、マンガ家と同じようにエモーショナルな部分を持ちながら、しかし、正反対に近い行動パターンを持つ職業というものは何かと考えながら、先がすぼまって、つまらなくなってきているかもしれない人生を、もう一回再生させるための手がかりを求めていたのかもしれない。

 でもって、辿り着いた職業の一つが、まず文化人類学者である。
 といっても、文化人類学者が本当はどういう行動をしているのかを知っているわけではないので、想像の域を出ないのだが、その想像だけで言えば、彼らはひたすら世界中のあちこちに飛び回ってフィールドワークをしているイメージがある。あちこち歩き回っていたのでは仕事にならないマンガ家とは、正反対であろう。

 あるいは、同じような根拠で、世界中の風景を撮る写真家とか、世界的なオーケストラ指揮者とかも有力な候補である。到底凡人にはなれそうもないハードルの高い職業ばかりを思いついてしまうのが欠点ではあるが、あれこれ夢想しているうちに、マンガ家であっても可能な行動パターンが見つかるかもしれないではないか。

 とか何とか考えているうちに、時代が進み、実際にはデジタル化時代のおかげで、僕も少なくとも物理的空間的な制約からは解き放たれつつあり、それなりに行動パターンが変わってきているのであった。


2004年01月28日掲載

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