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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




253 使用上の注意を守りましょう(3)

 いかに小さな詰め物といえど、逆方向から突っ込んでは填るわけがない。摘む方向を変えて再チャレンジである。が、今度は接着剤が指にくっついてしまって、詰め物が離れてくれない。更に、指と指もくっついている。市販の接着剤なので、死ぬまでくっついたままというほどの危険過ぎる接着力は与えられていないが、小さすぎるものだと扱いにくいという意味では十分に強力な接着力である。ピンセットで摘めばうまくいくのかもしれないが、生憎とそういう気の利いたものがない。しょうがなくて、生来のずんぐりした指で触ると、せっかく塗り込んだ接着剤が指にベタベタ転写してしまって、どうにも上手くいかない。

 そうこうするうち、詰め物を床に落とし、どこへ行ったかわからなくなって必死に探していると、つれあいが花を抱えて戻り、さあ墓の開眼式へ行きましょうということになり、後ろ髪を引かれつつ、詰め物の無くなった空洞を舌でくちゅくちゅしながら高速道路を運転し、帰宅したら真っ先に詰め物を探さねばということばかり考えながらコンビニで買ったおにぎりをパクリとやったら、ガリッというイヤな音がして、舌でくちゅくちゅ探ってみると、詰め物が詰まっていた空洞の形状がそれまでと大きく違っていて、要するに歯が更に欠けたことを知り、14Kだか18Kだかで出来た高価な金の詰め物が利用価値のない無用の長物になってしまったことにウオォォォーーーッと号泣すればまるでマンガだが、実はその通りで、この段落冒頭の「そうこうするうち」以降は創作である。

 実際はそんなようなことはなくて、すったもんだはあったものの、なんとか詰め物を元の鞘に収めることが出来た。が、所詮応急処置はそれなりのものだ。一週間後、京都で開催された高校同窓会へ出席したその帰路、中央自動車道を運転中に突如ポロリと外れてしまった。


2004年12月15日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部