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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




263 有名人(1)

 もう40年以上も昔の話である。
 長い髪を引っ詰めにした体格のいい二人の男が、手に釣り堀用の竿を持ち、少々肌寒い日にもかかわらず、白っぽい浴衣の裾をはだけながら、20メートルほど先をのっしのっしと歩いている。誰かが、「柏戸だ!」と叫んだ。釣られて、みんなが声を出した。「ほんとだ、柏戸だ」「うわーっ、柏戸だ」「柏戸だ柏戸だ、柏戸が釣り堀で釣りしてる」

 僕が小学生だった頃、学校の行事で、年に一度貸切バスを使った遠足があった。この時が何年生だったかは忘れたが、福岡の箱崎というところへ行き、筥崎宮という神社や水族館などを見学した。いま、その水族館をインターネットで探してみたが見つからないので、既になくなったのかもしれない。その水族館だったか筥崎宮のどちらか近くに釣り堀があり、そこで「柏戸」が釣り遊びに興じているのを僕たち小学生が目撃し歓声を上げたというわけだ。

 柏戸というのは、1960年代、大鵬と共に大相撲界の人気を二分した47代目の横綱である。大鵬はすぐあとの48代で、子供の好きなものの代名詞として「巨人・大鵬・卵焼き」とまで言われた大横綱だ。当時は二人の四股名をとって「柏鵬時代」と呼ばれ、まさに大相撲の黄金時代を築いていた。その白黒テレビのブラウン管上でしか見たことのない大スターの柏戸が、素のままの格好で、子供たちの目と鼻の先にいるのである。もちろん、色も白黒ではなく“総天然色”だ。田舎の小学生が、有名人という生き物が本当に実在していることを実感した瞬間であった。

今週の福山さんが動クンです!



2005年03月02日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部