写真
---> 拡大表示



* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number   




272 妄想と現実の距離(2)

 僕が確か中学一年生の時だったと思うが、学校の課題で書いた作文に「マンガ家になりたい」と書いた。しかし、そのほんの少し前、つまり中学に入りたての頃は、プロ野球の選手になりたかったのである。いや、本気でそう思っていた。中学に入ったら野球部に入ることに決めていたので、母に無理を言って新しいグローブも買ってもらった。今ではグラブという言い方をするのかもしれないが、当時はグローブと呼んでいた。僕は、その真新しいグローブに、一緒に買ったグリースをたっぷり塗り込み、来るべき入部に備えた。

 中学へ入学して何日目かに、新入生に対しクラブ紹介が行われ、僕は躊躇なく野球部の列に加わった。入部を済まして帰宅すると、僕はまたグローブに入念にグリースを塗り、明日の初練習に備えた。

 翌日、僕の意気込みに水を差すかのごとく雨が降った。
 田舎の中学生はひどくがっかりしながら、長靴を履いて出かけた。
 ところが、午後になって一転、雨が上がり、陽が燦々と降り注ぐ絶好の練習日和になった。僕は長靴を履いて登校したので、放課後、そのまま長靴を履いて野球部の練習に出たら、野球部の上級生にひどく叱られた。その上級生は、高校進学後、甲子園に出場し優勝した。そして、僕はその日を限りに野球部を辞めることにした。初日からケチがついたせいで、自分にはどうも野球運が無さそうな気がしたということもあるが、ある時、長姉の夫でずっと高校まで硬式野球をやってきたスポーツ万能の義兄に、僕が真新しいグローブを自慢そうに見せびらかしながら、プロ野球の選手になると言ったら、「そうか、頑張れ」と言ってくれるかわりに、「お前がかい? カハハッ、やめとけ」と一笑に付されてしまった。その一件で、僕はもしかしたら、自分で思っているほど運動神経がないのかもしれないと懐疑的にもなっていた。そこへ、初日の雨と長靴である。一挙にプロ野球選手への思いが冷めてしまった。


2005年05月11日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部