* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


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273 妄想と現実の距離(3)

 僕の華麗なグローブさばきや、シュアなバッティングをたまたま見た通りがかりの人が実はプロ野球のスカウトで、「君はすごい、天才だ、ウチのチームに是非入ってくれたまえ!」と言われることを夢見てきた少年の妄想はたった一日でついえたが、同じパターンの夢を、今度はマンガ家というジャンルで見るようになった。映画スターでも歌手でも良かったが、顔やスタイルにいまいち自信がなかったし、絵を描くことなら、とりあえず誰にも負けないような気がしていた。実に図々しくも厚かましい自分自身に対する評価だが、当時は本気でそういうふうに感じていたのだから、身の程知らずとはこのことである。だから、さささっと描いた下描きに過ぎないようなものを、通りすがりの人が見て驚き、「君のマンガは面白い、君は百年に一人の天才だ、私の知り合いに大手出版社の雑誌編集者をしている者がいるので、是非紹介したい!」というような、まさにマンガの世界にしかないようなことが起こるのを本気で期待していた。浅はかな夢……というよりは妄想だが、少年少女は誰しもこういう夢を見がちである。

 しかし、その夢が時に現実になるから、世の中はわからない。
 プロ野球選手からマンガ家へ夢をシフトした僕は、中学を卒業した年の春休みに描いた20数ページのマンガを、ある大手出版社の新人賞募集に投稿した。15歳の時である。すると、入賞はしなかったものの、最終審査の10編に残ったのだ。でもって、「君は天才だ、是非ウチの雑誌で連載を!」という展開にこそならなかったものの、僕がいつも見ている妄想と現実とは、さほど距離がないことを、この時に知ったのである。別の言い方をすれば、ハッキリと手応えを感じたのであった。

 以来、僕は現在に至るまで、こうした、いわば男版シンデレラ・コンプレックスとでもいうべき夢をずっと見続けることになる。


2005年05月18日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部