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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




279 サン・マロへの旅(5)

 お迎えの人はオノレさんといった。

 昔、「おのれ、ちょこざいな、名を名乗れ!」という、子供なら誰でも知っている有名な台詞があった。まだ民生用のTVが無かったか、ほとんど普及していなかった1950年代の終わり頃、黄昏と共に遊び疲れて帰宅した子供たちが聴くラジオ番組のイントロに使われていた台詞だ。

「赤胴鈴之助だーーっ」

「名を名乗れ」に応えて、子供の声がそう名乗り、直後に主題歌が始まると記憶しているが、その一連のシークエンスによる刷り込みがよほど強いのか、オノレさんと聞いた僕は反射的に「オノレ、ちょこざいな、名を名乗れ」と言いそうになり、あわてて言葉を飲み込んだ。

 そんなふうに、日本語みたいで変わった名前だなと思ったが、考えてみれば、あの文豪バルザックも、あの銅版画で有名なドーミエも、ファーストネームはオノレである。そう珍しい名前でもなさそうだ。しかし、目の前のオノレ氏のそれはファミリー・ネームである。

「オノレという名前は、ファーストネームにも苗字にも使われます」

 オノレさんは、このあと何日間も拝見することになる、独特のはにかんだような笑顔を僕らに向けながら、流暢な日本語でそう説明した。


2005年07月06日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部