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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




280 サン・マロへの旅(6)

 空港からのタクシーは、パリのオデオンにある小さなホテルに到着。チェックインを済ますと、小雨の中、僕らはオノレさんの後ろをとことこついて歩きながら、近くのレストランへ夕食をとりにいった。
 見てもさっぱりわからないメニューを、オノレさんが丁寧に説明してくれる。つれあいは日本では馴染みのない魚のスープを頼み、僕とオノレさんはそれぞれビーフ入りのマッシュポテトとサーモン・ステーキ、それに白ワインを注文した。ワインはもちろんボトルである。

 周囲を眺め回すと、当たり前だが、みんなフランス人ばかりだ。飛び交う言葉もすべてフランス語である。フランスが初めてのつれあいは、この状況を非現実的に感じているらしく、「う〜〜フランス映画だ」と何度も口ずさんでいる。
 隣の席に20代後半くらいの男女のカップルがいて、男のほうが盛んに喋っている。一方的に喋り倒しているといったほうがいいかもしれない。「隣の彼氏、人生論を語りまくって彼女を口説いているよ。うまく口説き落とせるかな?」とオノレ氏が、例のはにかむような笑みを浮かべながら日本語で言った。僕もつれあいも「そうなんだ」と知って笑った。僕は瞬間エリック・ロメールの映画を思い浮かべた。彼らは、まさに僕がロメールの映画などで疑似体験してきたフランス的な風景そのものである。僕らはいま、その彼らの隣にいる。いわば、ロメール的映画の世界のすぐ隣にいるという、なんとも言えない不思議さと奇妙なリアリティに、僕も思わず「フランス映画だ」と口走った。

 パリの夜は、後にも先にもこの日だけである。
 明日の早朝には、もうサン・マロへ向けてパリを発っていなければならない。


2005年07月13日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部