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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




281 サン・マロへの旅(7)

 今回通訳とガイドをしてくださっているオノレさんは、14年間日本に住んでいたという。しかも、奥様が日本人で住居も中央線の荻窪だったというから、昔からずっと中央線がらみの人生だった僕らにとっては、ほとんどご近所さんといった感覚である。もちろん彼は日本語は読み書き共に達者であり、現在はパリに住み翻訳家を生業としている。僕の「臥夢螺館」や、この秋に出版される予定の「うろしま物語」という作品をそれぞれ仏語に翻訳したのも彼である。そうした縁もあり、今回はその翻訳を依頼した版元のカステルマン社が僕をサン・マロのフェスティヴァルへ招待作家として送り込んでくれたので、彼はその版元に翻訳ならぬ通訳兼ガイドとして雇われることになったというわけだ。

 その彼が、翌日の早朝、オデオンのホテルに僕らを迎えに来た。予定の時間よりだいぶ早い。フランス人は、概して時間にルーズだと思っていたが、彼は日本に長く住んでいたせいなのかどうか、例外のようだ。

 5月とはいえ少々肌寒い中、タクシーでモンパルナス駅へ行く。
 フランスの駅には改札口というものがないことにまず気づいた。どうやって無賃乗車を防ぐのだろうと疑問に思うが、きっと日本とは違った確立した良い方法があるのだろう。オノレさんが、だだっ広い駅舎の中、ガイド役らしく僕らが乗るべきフェスティヴァル専用列車を探してくれているが、駅係員の誰に訊いてもよくわからないらしい。

「しまった、ここはフランスだった」

 と、彼がまた例のはにかみ笑いを浮かべて言った。


2005年07月20日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部