写真
---> 拡大表示



* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




288 サン・マロへの旅(14)

 14年間日本に住んでいたというオノレさんは、時間に関してはちっともフランス式ではなく、きっちり日本式である。近くの別のホテルに宿泊している彼は、毎朝、予定の時間よりずっと早く僕たちの泊まっているホテルへやってきて、フロントからの電話で今日一日の始まりを告げる。

 僕たちが泊まったホテルは、目の前がすぐに海である。北の海とは思えないエメラルド色した海と白い砂浜は、まさしくリゾート地そのものの色である。海岸道路直下の砂浜には波消しブロックがずらりと並んでいるが、日本の海岸に普通に見られる、あの無粋なコンクリート製のテトラポットではない。枝を払った大きな天然の木が等間隔に砂に挿してあるのだ。人工物であることには違いないが、天然木という素材が見事に自然と調和しており、機能性を確保した上で、リゾート地としての景観を損なわないばかりか、更に絵になる美しいものにしている。日本では見たことのないものであり、今回感心したものの一つである。

 その碧い海を眺めながら、ホテルの食堂で朝食を採っていると、オノレさんが「右のほうの窓に近いテーブルにいるおじさん、知ってる?」と話しかけてきた。「有名なフランスの俳優さんだよ」。窓のほうを見ると、確かにおじさんがいて、ひとりで朝食をとっている。そういえばどこかで見たような顔だ。「『タンゴ』*とか『コックと泥棒、その妻と愛人』**などの映画に出ていた俳優でリシャール・ ボーランジェ」というオノレさんの説明で、僕の記憶が一瞬にして蘇った。名前は覚えていなかったが、確かに窓際のおじさんは『タンゴ』でパイロット役を演っていた俳優さんである。


*『タンゴ』
 パトリス・ルコント監督作品/1992年/フランス
**『コックと泥棒、その妻と愛人』
 ピーター・グリーナウェイ監督作品/1989年/フランス・イギリス


2005年09月14日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部