* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


写真
---> 拡大表示










290 サン・マロへの旅(16)

 同じホテルに泊まっている有名人というエピソードには、もう一つのヴァージョンがある。やはりオノレさんが「このホテルに、別の日本人が泊まってるよ。さっきまで朝食をとっていた」と言う。今この町にいる日本人は僕たちだけかと思っていたので、へえ〜と思ったが、その時はそれ以上の興味が湧かなかった。
 翌日、同じように一日の始まりを告げにきたオノレさんが「ツジという名前の小説家、知ってる?」と訊くので、「辻仁成とか?」と答えると、「そう、それ、その人、たぶんそう。その人がさっきまでここで朝食をとっていたよ」と言う。「ええっ、ってことは、ひょっとして奥さんの中山美穂もいました? 子供も?」と訊くと、「名前は知らないけど、女の人と子供がいたよ」という。驚いた、なんとあの中山美穂と僕らはこの同じ小さなホテルに泊まっているのである。僕らは三階の海側の部屋だが、彼らはいったいどの部屋に……? 僕のミーハー心に俄然火が付いた。が、場はわきまえないといけない。

 と、場をわきまえている間に、中山美穂とは縁がなかったのか、結果を先に言えば、とうとう一度もすれ違うことなく終わってしまった。一度など、オノレ氏が「今、辻仁成がサイン会をやっているよ。奥さんもいるよ」と言うので、余程描きかけのサインを放り出そうかと思ったが、そういうわけにもいかず、急いで仕上げてから現場に駆けつけたが後の祭り、中山美穂どころか日本人らしき人影すらどこにもなかった。更に、彼らは帰りのチャーターバスは利用せずに車でパリへ帰ったという話を聞き、僕のミーハー的好奇心は未達成のまま終わりを迎えたのであった。今回の旅行で一つ心残りがあるとすれば、そのことであろうか。(文中、敬称略)


2005年09月28日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部