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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




293 サン・マロへの旅(19)

 いよいよサン・マロのフェスティヴァルも終了し、僕たちは元来た道をそのまま逆になぞって帰ることになった。そして、パリはモンパルナス駅のタクシー乗り場での小さな出来事は前に書いた。オノレさんとはここで別れたが、翌日にも雑誌の取材があるので、本当のお別れはもう少し先である。

 最初に泊まったパリのホテルの別の部屋で朝を迎えた僕らは、パリの自宅に戻ってフランス式の時間感覚に戻ったらしいオノレさんを少しだけ待った。いつものゆったりとした調子で現れたオノレ氏と一緒にタクシーで、かつてゴッホやユトリロやピカソやドガやロートレックといった名だたる天才画家を生んだ町として有名なモンマルトルへ向かう。パリ市内を一望に見下ろす丘の上に建つサクレ・クール聖堂を見上げながら、幅広の長い階段を登り、声を掛けてくる土産売りを無視しながら、安っぽい似顔絵や売り絵がごちゃごちゃと並ぶテルトル広場のカフェに入り、ビールを飲みながら雑誌編集者を待つことにする。

 編集者もやはりフランス式なのだろう、約束を1時間過ぎても現れない。こうした場所で過ごしていることが楽しいので、待たされていることに苛立つということはないが、早く終われば、パリが初めてのつれあいに、せめてルーヴル美術館の中くらいは見せてあげることが出来るかなと思っていたので、だんだんそれが難しくなることに対する申し訳なさを感じ始めていた。そして、改めてもう一度、今度は観光旅行として訪れる必要があるなとも。

 とりあえず、せっかくこういう場所にいるのだからと、「たぶん、僕のほうが上手いよ」と言って、鉛筆とクロッキー帳を鞄から取り出し、オノレさんの似顔を描くことにした。
「営業妨害かな?」と僕が言うと、「お金を取るわけではないから大丈夫でしょう」とオノレさん。サラサラと描いたものを「どう、似てますか?」と見せると、彼は「僕以外の誰でもない」と言って喜んでくれた。描いたものは彼にプレゼントするので、デジカメで写真を撮っているところへ、やっと編集者が現れた。


2005年10月19日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部