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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




304 セルマーのアルト・サックス(2)

 テナーより安い、軽い、音が出しやすい、というのが、敢えてアルトにした基本的な理由である。テナーより音が出しやすいというのは、たぶん僕の誤解であろう。というのも、僕は30年ほど前に某国産テナーの質流れ品を買ったことがあるが、あまり上手く音が出せなかったのだ。当時の価格で、4万5千円くらいだったと思うが、元がいくらくらいのものかも分からない上に、楽器の専門店でも何でもない単なる質流れ品店に並べてある楽器だから、当然それらしい調整をしてあるわけもない。マウスピースだけは、やや高級な銀メッキタイプのSelmer製のものが付属していたが、かなり使い込んだものらしく、リードの当たる部分のメッキは剥げ、やすりで削り込んだ跡があった。

 そういう楽器だからか、あるいは僕に才能がないせいなのか、容易く音を出せるというわけにはいかなかった。とりわけ、10本の指でことごとくキーの穴を塞ぐB♭以下の低音が難しく、エイヤッと大きく息を吸い込んでから一気に吐き出すという、およそ楽器の演奏には似つかわしくないバカげた体力を要した。リードをカッターで削って薄めにしてみたり、いろいろ試してみたが、あまり効果はなかった。そのため、低音は避けるようになり、中音からオクターブ上のほうの、いわばアルトの音域ばかりで鳴らすことになった。そうした経緯があり、テナーは音を出すのに無闇に体力を要するという、おそらく誤解に基づいたイメージが僕の中に定着してしまった。

 しかし、アルトならば、そのいかにも軽そうな見た目から、容易く音が出せそうである。実際、容易く音が出た。それがアルトだからなのか、質流れ品と楽器としてのクオリティが問題にならないほど違うせいなのか、僕には正確にはわからない。おそらくその両方であろう。が、値段の高い楽器はそれだけのものがあるということを僕も知らないわけではないので、その差が大きく出たのだろうというのが目下の結論である。


2006年01月11日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部