週休六日のススメ 文・写真/福山庸治 --->Back Number |
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307 初恋(1) 昨年、僕の初恋の女性が亡くなった。 癌だった。 本人の口からもう長くは生きられないことを聞かされたのは、2002年9月、東京で行われた高校の同窓会でのことだった。その同窓会は、首都圏在住の元同級生を中心にしたものだが、彼女は大阪からわざわざ駆けつけてくれた。僕も彼女と会うのは30数年ぶりである。彼女とは高校卒業後に一度会ったきりで、その後どこに住み、どういう人生を送っているのか、消息さえも知らなかった。新しい同窓会名簿が送られてくるたびに、真っ先に名前を探したが、彼女の名前はどこにも載っていなかった。 だが、名簿には僕の名前は常に載っている。 ある日突然、彼女から手紙が来た。Eメールではなく、封書の手紙だ。 私は東京の同窓会に出るつもりだが、あなたは出ますか? 出来れば是非お会いしたい、といった内容だった。僕はすぐに返事を書き、もちろん出席するつもりであることを伝えた。もともと名義だけに過ぎないにせよ、同窓会の実行委員の一人に名を連ねている責任もあったし、まして彼女と再会出来るとなれば是非もない。 初恋の人には会うもんじゃないとはよく言われることだが、その根拠として語られる不安に関しては、僕は何故かとても楽観的だった。彼女はきっと、僕が最初に見惚れた昔のままの少女に違いないという、何の根拠もない自信があったのだ。しかしそれは、初めての同窓会を前に、誰もが冒しがちな初恋の相手への果てしない理想化という喜劇的な過ちの一つである可能性を大いに秘めていた。
2006年02月01日掲載
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