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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




311 初恋(5)

 30数年ぶりに見る初恋の人は、昔のままの少女だった。

 と書きたいところだが、実は会う前に巡らしていた想像とは違っていた。
 昔年の初々しい少女は容貌も体型も見事に崩れ去り、あのおとなしく静かで控えめだった立ち居振る舞いは、騒々しくて我先な図々しいオバちゃんのそれに取って代わっていて、あの人のどこに、どの部分にかつての僕はときめいたのか、その片鱗さえも見出しようのない物体を前に、どう思いを巡らしてもその答が見つからず、ただ呆然と佇むしかなかった…… というふうに違っているのではない。初恋の人は、顔も美しく体型も娘のようであり、その初々しさは見事に変わっていない。

「私、変わったでしょ? 昔は無口でおとなしくて自分一人では何も出来ない女の子だったけど、結婚して大阪へ行き、あの街はおとなしくしてちゃ生きていけないことを知って、強くならなきゃと頑張ったらすっかり大阪のオバちゃんになってしまったの」と自分で言うくらいだから、確かに物怖じせずよく喋る快活な女性に変身していた。しかし、そう喋りながらも、女性らしい細やかな雰囲気はちっとも変わっていなくて、僕が昔知っていた少女が、30数年分の齢を重ねただけの姿で目の前にいるという印象だった。ただ、少女の顔にはなぜか老人のような皺が細かく縦横に走っており、いかにも痩せていた。その点だけが違っていた。

 嫌な予感がした。


2006年03月08日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部