写真
---> 拡大表示



* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




317 離れを建てる(3)

「僕には家なんて買えませんよ、銀行がまずお金を貸してくれませんから」
 半ば自信満々にそう言うと、営業マンは、
「いや、大丈夫です、任せてください」と言う。
 どこをどう任せれば大丈夫なのか、かつて銀行から融資を断られた経験を持つ僕にとって俄には信じがたい答えだが、プロがそう言うのだから何やら裏表駆使した秘策でもあるのだろう、それなら任せてみようじゃないのという気になり、冷やかし半分、翌日現地へ案内してもらことにした。ただ外観だけならいつでも見ることが出来るので、僕は帰路ほんの少しだけ脇道に逸れ、一人でこの物件を下見することにした。日は大きく西に傾いてはいたが、建物を眺めるだけならまだ十分に明るかった。

 場所は前述の通り、アパートの真南300mほどの位置にあり、その間には畑以外何もないというこの上なく見晴らしのいい所なので、物件からもアパートからもお互いがよく見える。そういえば、なんとはなしに「やれやれ、また一つ畑を潰して新興住宅が建つのか……」と少々アンチ文明的な気分でアパートの窓からベランダ越しに眺めていたような気がしないでもない。まさかその家に自分が住むようになるとは想像だにしていなかったが、そうした土地勘やら慣れ親しみも手伝って、無性にこの家と土地が欲しくなり、僕は下見したその場で買うことに決めてしまった。食品売り場を出て僅か30分後の出来事だった。こういうことの決断だけは、僕は異様に早いのである。もっとも、いくら決断が早くても、住宅ローンに関しては一筋縄ではいかず、あれやこれやと胃が痛くなるほど手を尽くさなければならなかった。途中何度もやっぱり家なんか買うのは止めようかと思ったほどだ。対金融機関信用度ランキング上位の職を持つつれあいが隣地の購入資金を二つ返事で大手都市銀行から借りられたのと比較すると、その差たるや天と地ほどの開きがある。

 そんなこんなのここには書くつもりのない苦労の末に、現在の家に住むようになったのであるが、登記簿を見ると、この土地の前の持ち主は、なんとアパートの大家さんちのお婆さんであった。丁度僕らがアパートに住んでいた頃、お婆さんのご主人が亡くなったので、その土地を遺産相続されたのだろう。だが、如何せん300m以上先でも自宅の庭先という広大な農地であるため、多額の相続税を賄うのに土地の一部を売らざるを得なかったに違いない。その土地の一部を偶然にも店子の僕が買ってしまったというわけだ。


2006年04月19日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部