写真
---> 拡大表示



* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




321 離れを建てる(7)

 今度は二人揃って営業所に向かうことになった。

 日照やら景観やら、我が家に絶大なる影響を与えることになるであろう隣地は36坪あり、イラストにある通り、我が家の敷地の西端ほぼ真ん中あたりから南に伸びている。東西には狭いが、L字型に伸びて道路に繋がった部分だけはやけに長い。車を二台分縦列して駐車できるようにとの設計らしい。その分、25坪の家がぎりぎり建つ31坪強よりは広めの区画にはなっているものの、敷地の北側に駐車スペースをとれば、家屋は必然的に南側に寄せて建てられることになる。となると、我が家からは南西方向への視界は新旧二軒の建物で完全に塞がれてしまうわけだ。富士山が見えなくなるどころの騒ぎではない、いつも隣家の背中やら尻ばかりを目と鼻の先にしながら暮らさなくてはならなくなるのだ。これは想像しただけでも鬱陶しい。

 やはり、この土地はなんとしてでも僕たちのものにするしかあるまい。
 僕らはプレハブの営業所の中に入り、営業マンに「さっきの土地を買いたいのだけど」と、まるで電気屋で冷蔵庫でも買うような調子で言うと、営業マンはちゃんと真面目に商談に入ってくれた。いや、営業マンが真面目に商談するのは当たり前である。変な話だが、僕は常に、こういう局面では、僕はまともに相手してもらえないのではないかという妙な劣等感コンプレックスがあるのだ。それはマンガ家という、いささか世間からはズレた場所にいる、無精の末に辿り着いたチョンマゲ頭をしているような、いわばカタギではない人間特有のそれかもしれない。だから、いわゆる一般世間の人が自分に対する時、「ちゃんと真面目に」などと、いちいちそういう印象を持ったり、「あ、まともに相手してくれるんだ」などと秘かに感激したりするのだ。とりわけ、今回のような買い物額がン千万円という大層なものとなると、その妙なコンプレックスがよりいっそう強く作用してしまうのである。そんなことに感心しながら勝手に浮き足立っていると、営業マンがこう言った。

「じゃあ、手付けをお願いしてよろしいですか?」


2006年05月24日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部