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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




334 離れを建てる(19)

 そこで、僕には古くからの友人の一人が陶芸家であることを思い出した。どうせなら、オリジナル一品モノを作って焼いてもらったほうが何倍も何十倍も楽しいかもしれない。そう思ったら矢も楯もたまらず、その彼に電話を掛け、洗面ボールの制作を打診したのだが、予想通り、彼は洗面ボールなど作ったことも焼いたこともないという。だったら、ここは一つ新商品開発、販路拡大の機会と捉え、楽しみ半分是非トライしていただきたいと冗談混じりに言うと、元より腰が軽く好奇心の強い男なので、即座にやってみましょうということになった。そこで、どうせなら絵を福山さんが描けば面白いんじゃない? と彼が言うので、じゃあ素焼きを作ってこちらへ送ってもらい、絵を描いて送り返そうということになった。ちなみに、その陶芸家は川西幹雄さんといい、昔はマンガ誌や週刊誌の編集者だった男である。

 さて、その素焼きの洗面ボール(なんと直径40cm以上ある!)が、絵を描くための乳鉢やら新ゴスという顔料と一緒に届いたのだが、いざ絵を描こうとすると、この一品だけの一発勝負というプレッシャーやら、あれもこれもと欲張る気持ちが邪魔してなかなか描けない日が続く。本焼きをする時間もあるし、あまり日を延ばすと離れが建ってしまうので、ここらが限界かと思って、やっと意を決して描き始めることにした。

 まずは川西さんに指示された通りに、新ゴスというコバルト系の顔料を乳鉢に入れ、数日前から煎れて腐らしておいたお茶を注ぎ、乳棒で20分以上、お婆さんの気持ちになってゆっくり丹念にあたり続けた。そういうゆっくりと時間の掛かる根気のいる作業は、昔からお婆さんの仕事だったらしい。

 でもって、なんとか描き始めたはいいが、これが想像していた以上に難しい。間に合わせの小学校の図画工作で使うナイロン筆を使ったせいもあろうかと思うが、キャンバスとなる洗面ボールが曲面で出来ているため、線を一定の太さで引くのが至難なのだ。しかも、超初心者ゆえに焼き上がった時の色の濃さなど全く計算できないから、どの程度の濃さで描けばいいのかもさっぱりわからない。わからないから描けませんでは先に進まないので、とりあえずは描いてみたが、さて、どんな焼き上がりになるのか、それとも見るも無惨な結果になるのか、僕自身皆目見当もつかないのであった。



※「離れを建てる」を第1回から読みたい方は、こちら


2006年08月30日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部