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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




335 離れを建てる(20)

 その洗面ボールが焼き上がり、送られてきた。

 これがその写真だが、イメージしていたより格段に地の色が濃い。出来れば古びた感じを出して欲しいという僕の注文に、なんでも二種類の釉薬を施したという。陶芸に関する知識など一つも無い僕が勝手にイメージしていたのは、有田焼のような青味を帯びた白の地にコバルト青の絵が載っかるといった、いわゆるどこにでもある“普通の”陶器で、絵だけがオリジナルといったものである。それだけに、下手をすれば観光地の土産店あたりで売っている安っぽいイラスト絵皿のようになることのほうを恐れていたのだが、焼き上がったものは実に重厚といおうか、真ん中の排水用の穴が無くてもっと器が小さければ、抹茶を点てて飲みたいくらいの趣きである。そう感じるほど器自体が重量感に溢れていたため、最初は僕の描いた絵が蛇足のように思え、むしろ無いほうが良かったかもしれないとしばし立ち尽くしてしまった。つまり、器に絵が負けていて、どうにもミスマッチなような気がして落ち着かないのである。もっとも、自分のマンガが雑誌に載ったときも、毎回必ずといっていいほどそのミスマッチ気分を味わってきたから、そう感じてしまうのは創作家としての宿命なのかもしれない。

 翌日、陶芸家から電話が掛かってきたので、感じたままのことを電話で伝えると、数日後に次のようなお手紙が送られてきた。

『土は半磁器を使いました。陶器の土と磁器の土を混ぜたものです。色は白が強くなります。釉薬は、まず全面に磁器用透明釉(うわぐすり)を掛け、その上から天竜寺青磁という緑がかって古色を感じる釉をかけました。明るくするとすれば、透明釉だけか、きぬた青磁という青のうすい釉をかければ表現できるかと思います。建物の一部とはいえ、取り替えることも可能と思います。まず使ってみてください。家になじむことを祈っています』

 ちなみに、この洗面ボールが離れの雰囲気に馴染むであろうことに関しては、僕は一片の疑いも抱いてはいない。おそらく、部屋の主(ぬし)のような存在になっていくであろうと思っている。



※「離れを建てる」を第1回から読みたい方は、こちら


2006年09月06日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部