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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




339 離れを建てる(24)

 離れの話をずっと書いてきたが、銀行ローンの契約も完了し納期もとっくに過ぎているのに、実はまだ完成していない。

 隣のキャベツ畑が分譲住宅地として売り出され、最も早い時期に隣接地を買い、間取りも工務店も決まったのに、我が離れだけが未だ工事中である。他の建売住宅のほうは全棟とっくに完成し、まるで何年も前からそこに住んでいたかのように当たり前に人が生活している。建坪わずか12坪ほどの小さな家に、そこまで時間を掛けるとはよほど凝った家かと思われるかもしれないが、おそらく工務店のほうの人手が足りないというのが実情であろう。夏の真っ盛りだった頃の丸々三週間、工事現場には人っ子一人現れなかった。

 工務店に電話し、遅れている理由を聞くと、材料がないという答が返ってきた。材料がないとはどういうことか? 家の外壁に塗る予定のそとん壁はあまり一般的ではないかもしれないが、他はさして珍しい材料でもない。もしかして資材を仕入れる資金繰りがつかなくて夜逃げしたか? などと笑えぬ冗談を僕ら夫婦で飛ばしたりするのだが、それでも工事が再開する気配はなかった。そういえば、珪藻土の壁の色や板の間の塗装の色、タイルの種類をどうするかの打ち合わせすらまだしていないのである。それでは材料を仕入れようがないではないか。つまりは打ち合わせの時間すらないほど先方が忙しいということになる。この工務店はいかにも小さな所帯なので、喩えると、量産出来る体勢にない零細マンガ家のようなものなのかもしれない。仕事がちょっと重なっただけで、途端にアシスタント不足に見舞われ、締切を守るのが困難な状況になっているのだろう、いずこも同じ秋の夕暮れなのかもしれないねと勝手に好意的に解釈しつつ、「しかし、いったいいつになったら完成するのだろうか?」とほったらかしにされたままの離れを、夫婦肩を並べて寂しく眺めるだけの日々が長く続いた。

 工事が再開したのは、工事の音がピタリと鳴り止んでからおよそひと月の後だった。



※「離れを建てる」を第1回から読みたい方は、こちら


2006年10月04日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部