写真
---> 拡大表示



* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




346 離れを建てる 〜short break 佐渡島への旅(4)

 幸い、天気に恵まれた。
 午前9時に家を出て、介護施設の義父を拾い、いつもよりはのんびり走る。久々のドライヴに義父もうれしそうである。途中道が込むこともなく、13時過ぎくらいに直江津港に着いた。フェリーの乗船券を買って車列に並び、さて、佐渡ではインターネットに繋がるかどうか分からないので、ウィルコムの電波が立っている今のうちに、W-ZERO3[es]で自分のブログに書き込んでおこうと、ピーマンのタネほどの小さなキーボードを指の先で押し始めた途端、乗船が始まってしまった。

「いま僕は直江津港に来ている。これからフェリーに乗り込んで佐渡へ向かうところだ」というような内容を書き込みたかったのだが、「いま僕は直江津湖」と誤タイプ誤変換したところで僕はブログの書き込みを諦め、タイプする指を車のステアリングに持ち替えることにした。以来、佐渡島に滞在中の約三日間、僕はネットワーク上で行方不明となってしまうことになる。もっとも、乗船しても船がまだ港を離れるまではブログへ書き込む機会はいくらでもあったはずである。しかし、ついフェリーという乗り物のほうに僕は気を奪われてしまい、ブログのことなどすっかり忘れてしまった。元来、乗り物が好きなのだ。気がついたときには、船はすっかり沖合にあり、W-ZERO3[es]の液晶画面には「圏外」の文字がくっきり浮かんでいた。

 船は、僕のようなどちらかというと人工物の造形に興味を持った写真を撮る者には、被写体の宝庫である。いろんな場所が信じられないくらいに美しく、とてつもなくアートしている。実は船に乗り込むなり、それがうれしくてずっと写真を撮りまくっていた。三脚無しのコンパクトカメラで、暗い場所の被写体をストロボを使わずに長時間露光撮影するのは至難の業だが、カメラを手摺りや甲板などに圧着して固定したり、シャッターブレを少しでもなくすためにセルフタイマーを利用するなどして撮れば、たまに使えるものが撮れることがある。貧相な機材でもこれだけ撮れるんだ、アートは目だ、心だ、ということを証明したい一心で僕が被写体と格闘していたことを知っているのは、おそらく乗客が投げるポップコーンなどを目当てに港からずっとついてきたカモメだけであろう。



※「離れを建てる」を第1回から読みたい方は、こちら


2006年11月29日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部