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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




385 アニメ監督デビュー(31)〜短編オムニバス映画『Genius Party』

 先々週書いた通り、主人公は自分を表現することに於いて未だ発展途上の人間で、適切な言葉をその都度探しながら、短いセンテンスでぼそぼそっと喋る、この年代特有のどちらかといえばシャイな面を持つ少年である。逆に、ガールフレンドのほうは自分を出すことにまったく躊躇がないタイプだ。陽気で快活で表情が豊か、言葉ももちろんハッキリしていて明るく、暗さや深刻さからは遠い。
 そんな二人の声を演じてくれるのは、俳優の栩原楽人くんと岩井七世さん。どちらも1989年生まれだというから、主人公たちの実年齢とほぼピッタリである。
 例によって、リハーサル&本番の前に、俳優さんと打ち合わせをする。まずは栩原くんに上記のようなキャラクターの説明をして、「普段、友達なんかと喋っている時のような、素に近い自然な感じで」とお願いする。やや緊張気味の彼に、「大丈夫です、監督はほとんど一発OKですから」とSプロデューサーがフォローしてくれる。

 果たして、彼は実に勘が良く、僕の造形したい主人公を次々に声で実現してくれる。ドラマ中、主人公が初めて声を出すのが「ただいま」という台詞だが、たったそれだけの台詞にもその気になれば色んな表情を込めることが出来る。たとえば僕はその「ただいま」に、いつもの習慣で無意識に音を発する感じを求めている。つまり、ドアを開けて家の中に入れば、反射的に「ただいま」と言う、それが家族に聞こえるか聞こえないかは主人公にとってあまり重要ではない。自分が「ただいま」と言い、それが自分の耳にしか聞こえない声であっても、その「ただいま」は完結している。いわば、このシーンに於ける主人公は「ただいま」という声のアリバイを作っているのであって、必ずしもコミュニケーション言語として他人へ向けて発しているのではない。僕の望むのはそういう「ただいま」である。その感じを、栩原くんは即座に表現してくれる……のか、あるいは栩原くんがたまたま表現したものが僕にそういうふうに聞こえるか、どっちにしても結果としてとても幸運で満足のいく声を僕は得た。



 ※福山さんのアニメ監督デビュー話を最初から読みたい方は →こちら 


2007年09月19日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部