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* 連載フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




387 アニメ監督デビュー(33)〜短編オムニバス映画『Genius Party』

 アフレコの現場には、ミックスダウンを担当する録音技師さんが二度ほど同席、互いに挨拶を交わす。ミックスダウンとは、それぞれ別々に録音したアフレコの声と音楽と効果音を、今回だと5.1チャンネルのサウンドトラックに合成することである。

 ミックスダウンは浜町にある東京テレビセンターという所で行われるという。もちろん、僕は行ったこともなければ、そういう名前の会社が有ることすら知らない。メールで送られてきた地図を頼りに、都営新宿線という一度も利用したことのない地下鉄の乗り口を探し、浜町という所へ向かった。そこを降りて地上へ出ると、すぐ右横に野球場を有した公園が広がっている。浜町公園というらしい。公園の向こうは隅田川だ。その隅田川の上を首都高が走っている。浜町は日本橋の一角だから、いわゆる江戸前であり、名前の通り昔は目の前に海が迫っていたのだろう。見渡す限りコンクリートの無機質な建造物しか目に付かないが、なんとなく海の近くへ来ている雰囲気を感じる。

 東京テレビセンターは地下鉄入り口から1〜2分のところにある。受付でスタジオの場所を確かめ、ドアを開けて入ると、録音技師さんと彼の部下らしい若い人が既にミックスダウンの作業中だった。スタジオはまるでちょっとした映画館……というより、どこぞの資産家の私設ホームシアターのようである。ゆったりしたソファーに大きなテーブル、目の前には巨大なスクリーン、そして後ろの部屋から大型のプロジェクターで映写する仕組みになっている。映画館とちょっと違うのは、部屋の真ん中にどでかいミキサー卓が鎮座し、周囲にパソコンのモニターが数台光っているところか。何でもミキサーは英国製で、ミックスダウンに使用するパソコンはマッキントッシュだった。

 ミキサー卓は数億円もするシロモノらしいが、パソコンでの作業が中心になった今は、卓のつまみを動かすことはほとんどなくなったという。そういえば、昔、お金をバカみたいに儲けたらこういう空間を作りたいと夢見ていたことを僕は思い出した。かつて僕は2トラック・オープンリールのテープレコーダーでピンポン録音をしては一人音楽遊びをしたものだが、今ではパソコンと専用のソフトさえあれば、無数のトラックを使って、いとも簡単に多重録音が出来る時代になった。大がかりなスタジオも機材も必要としない、まさに夢のような時代がやってきたのである。が、そうなるとおかしなもので、逆に一人で録音することに僕は興味を無くしてしまった。制約から自由になったはずなのに、手に入れてしまうと、それは退屈でしかないということだろうか。しかし、偽レス・ポールと2トラ19cmのテープレコーダーしか持っていなかった昔の僕は、こういうすべてが揃った夢のスタジオが欲しくてたまらなかったのである。



 ※福山さんのアニメ監督デビュー話を最初から読みたい方は →こちら 


2007年10月03日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部