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* 連載フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




406 最も向かない職業(4)

 なるほど、“正義感”の一節は、その話に至る布石であったわけだ。

「共同浴場のあった前の広場を知っとるやろ? あそこの周りに桜の木がいっぱい植わっとったの、覚えとる? その桜の木を植えた人が市会議員の○○さんや。立派な人や。その人が今期限りで市会議員を辞めはるんやけど、その人の票が最低でも1200票ある。誰かいい人を探しとるんよ。庸ちゃんは正義感強いし、どう、市会議員にならへん? 1200票あれば受かるから」

 僕はあまりの突飛な提案に、吹き出しそうになった。
「またまた、何を言い出すかと思ったら、何とまあバカげたことを。僕がこの世の中で最も向いていないと断言できるのが政治家という職業だよ」と一笑に付した。そしたら、彼は「いや、立候補者本人が向いとるとか向いてないとか、そんなことはどうだってええの。担ぐほうの問題やから」と言う。そうか、なるほど、選挙の実態とはそういうものかと、政治のからくりをちらり垣間見たような気になったが、彼が本当にそういうものとの関わりを持っているのかどうかは、僕の知るところではない。よくよく考えてみれば、彼はその1200票という選挙地盤のある町には住んでいないのである。彼は中学の時に親の都合で関西に引っ越し、以来たびたび旅行はしても、一度も故郷に居を戻したことがないはずである。もちろん、僕もそうだ。

 ならば、何のため?
 仕事上の利害があるのか、はたまた故郷を想う彼の純粋な気持ちが、彼をそういうふうに動かしているのか。どっちにしても、僕の知る必要もないことなので、彼の目的を追求することなく、僕は約束があるといって3時間にも及ぶ電話を切った。


 後日、一通の封書が届いた。
 突然の電話による非礼を詫びる内容だった。郷土愛が強すぎるのかなとも書かれていた。僕は、とても楽しかったと葉書で返事した。実際、僕には最も向いていない職業の一つで、自分がなることなど絶対にあり得ないと考えている市会議員、そして市長という身分を、ほんの束の間ではあるが、彼のお陰で疑似体験させてもらったようで、なかなか楽しかったのである。


2008年07月16日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部