* 週刊フォトエッセイ*

バーチャルワインバー
「天孔雀亭(amano‐kujaku‐tei)」


  文・写真/中山慶太 --->Back Number

 

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ネッビオーロの収穫にいそしむアレッサンドラとガブリエッラ。ここラバーヤはバルバレスコ地区で有数の好立地の畑で、別の区画を所有する造り手ではブルーノ・ロッカが有名。一説には高名なガイヤの畑より条件がよいという。遠くにひろがるのはやはり名称畑の「モッカガッタ」。


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ネッビオーロの葡萄。粒の大きさは日本の『ベリーA』より小さい。分厚い果皮はたっぷりタンニンを含むが、ラバーヤのようにすぐれた立地に植えると果汁の凝縮感と糖分でバランスがとれる。なおピエモンテの畑では、葡萄の樹の仕立てはブルゴーニュ風のシングル・グイヨが一般的。


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フランコ叔父さんと記念撮影。彼はラバーヤの区画の小地主で、収穫の大半を妻の所有するワイナリー『カステッロ・ディ・ヴェルドゥーノ』からリリース。残りは樽売りしてしまう。ワイン用の葡萄は生食用と違い、普通は房ごとの摘果をしないためこのように多くの粒をつける。

『番外編〜ランゲの休日 #1』

 マカロニアンモナイト読者の皆様、2002年あけましておめでとうございます。

 連載中の『シチリアン・コネクション』もそろそろ最後の目的地に近づいてきましたが、今月はシチリア編をひとまずお休みして、番外編をお届けします。いぜんから書こうと思っていて、なかなか果たせずにいたテーマです。舞台はこのワインバーでおなじみの北イタリア。素晴らしいワインと料理で訪れるひとたちをもてなしながら、王様の田舎家で暮らす一家のお話です。

「フランコの畑にて」

 9月もなかばを過ぎると、その丘陵はにわかに活気づく。ふだんの長閑(のどか)な時の流れもどこへやら、南向きの斜面にしつらえられた畑にはひんぱんに人が出入りし、浅黒い肌の男達を乗せたキャンピングカーの姿も目に付くようになる。道ゆくひとたちは皆、天を見上げてなにやら熱心に語り合う。
 彼らの話題はふたつだけ。今年の葡萄の出来はどうか、収穫をいつ始めるべきか、である。

「今年はバルベーラの葡萄がとてもよく熟したのよ。うちではもう収穫を終えちゃったわ」
 早朝、畑に向かうボルボのハンドルを握りながら、ガブリエッラが後ろの私を振りかえって話しかける。
「あと、ネッビオーロもだいたい収穫済み。もう畑には葉っぱしか残ってないわね」 彼女は“フィニート”という部分に力を入れ、悪戯っぽく笑う。
「ほらほら、ちゃんと前を見て運転して、ガブリ」助手席に座ったアレッサンドラが叔母の肩をつつき、「大丈夫よ、ケイタの分はちゃんととっておいたから」
 と、こちらに目配せをした。

 ワイン趣味にどっぷり浸かった愛好者なら、ご贔屓の産地に赴いて収穫を手伝った方もいらっしゃると思う。私が生まれてはじめて葡萄を収穫したのは、ピエモンテ州ランゲ丘陵バルバレスコ地区の畑だった。広告ロケの仕事中に思わぬ休暇が舞い込み、滞在していたパリから旧知の宿に電話を入れると「今すぐいらっしゃい」。どんな良いことがあるかと思えば、待っていたのは赤い柄のハサミだった。

 その畑はラバーヤRabajaという名で呼ばれているけれど、これはピエモンテの方言で、辞書には載っていない。ガブリエッラとフランコの夫婦は、バルバレスコ地区にこのラバーヤと、あともうひとつ別の畑を持っている。どちらも評判の良い畑なのだが、彼らがつくるバルバレスコはふたつあわせて年産1万本とちょっとだから、わりとささやかな規模だ。
「このバルバレスコの畑はね」けっこう急な斜面を踵(かかと)で駆け下りながら、息を弾ませたアレッサンドラが説明する。「フランコ叔父さんの家のものなの。ガブリの畑はバローロのふたつ」
 あっちはもう収穫を終えちゃったけど、ラバーヤはあともうひと息。今日でおしまいにしないと、と彼女は丘の中腹の畝(うね)で立ち止まり、そこに置かれた赤いプラスチックのカゴから赤い柄のハサミを取り出して
「最初は楽そうに思えるけど、けっこうキツイわよ」と差し出した。

 畑にはすでに摘み手が散らばり、収穫をすすめていた。欧州のワイン産地では収穫期の摘み手は臨時雇いに頼ることが多い。フランコの畑で働くのは旧ユーゴ出身のジプシーの家族で、毎年この時期になるとキャンピングカーに乗ってやって来るのだそうだ。
「この畑でジャポネーゼ(日本人)が摘むのははじめてだ」腰に軽い痛みを覚えながら何列目かの畝にとりかかったところで、隣の畝から声がかかる。声の主を探すと、赤い柄のハサミを振って微笑むフランコが目に入った。
 良いバルバレスコが出来るといいですね、と大声で返すと、その隣でハサミを忙しく動かすガブリエッラが
「ラベルに“日本人が摘んだ”と書いたらどう」といった。
「それなら今から1ケース予約するよ」
 私の隣で葡萄を摘むアレッサンドラが、予約オッケー、と声を上げ、「でも発売は3年後だけど」と片目をつぶった。


2002年01月09日掲載

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-今週のワインリンク-


今週のワインリンクは、お休みです。

 

バーチャルワインバー・天孔雀亭から、新春プレゼント

アンモ読者の皆様に「ちょっと遅いけど、かなり豪華な」お年玉。店主が選んだ南北イタリアの銘酒3種類をそれぞれ1名様に差し上げます。

●プレゼントA:
バルバレスコ・リセルヴァ1996“ラバーヤ”/プロドゥットーリ・デル・バルバレスコ(赤・フルボディ、ピエモンテ州)

●プレゼントB:
バローロ1993“ラ・ローザ”/フォンタナフレッダ(赤・フルボディ、ピエモンテ州)

●プレゼントC:
コンテッサ・エンテリーナ2000“キアランダ・デル・メルロ”/ドンナフガータ(白・辛口、シチリア州)

いずれも日本では入手の難しいレア物です。
ご希望の方は『希望するワイン名(A、B、Cを明記)』に『バーチャルワインバーの感想』を添えて-POSTERI-からご応募ください。

 


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