* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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この日ボディとして使ったエクサは僕のお気に入りのカメラだ。独創的なデザインには大胆な割り切りと、旧東側の製品としては珍しい遊び心が込められている。でもフィルム給送部の機構設計にはちょっと無理がある。小型化の影響で巻き上げ用スプロケットギアの径が異常に小さく、フィルムのパーフォレーションと噛み合わずにときどきスリップするのだ。この機体だけの症状かもしれないけど。まあそういう弱点が面白い効果を生むこともあって、この写真はその好例。画面の左半分は二重露光で、これが絶妙の重なり具合になっている。狙っても二度とできません。
data:Ihagee EXA ver.1 + Angenieux Retrofocus Type R1 35mmF2.5  1/25sec. F=2.5 FUJICOLOR SUPERIA400



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ちょっと昔のフランス映画のような色調で、アンニュイな表情の麻理子ちゃん。レトロフォーカスの始祖鳥アンジェニューの作例はここまで。これじゃあレンズの性能がわからないままだって? いや、光学機器の正確な評価は僕の手に負えるようなものではないし、年月を経たレンズの性能をひとつの個体だけで断定するのは誤解のもとになると思う。だからこの連載では、こんな気分の写真に使ってみました、という雑感でまとめてみたい。アンジェニュー35mmについては、そのうちにバレックスとの組み合わせできちんと書きます。
data:Ihagee EXA ver.1 + Angenieux Retrofocus Type R1 35mmF2.5  1/25sec. F=2.5 FUJICOLOR SUPERIA400



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●今週のお題:
『アンジェニュー・レトロフォーカスR1』
一眼レフの救世主のようなレトロフォーカスレンズだけど、光学設計の現場では決して歓迎されないものだったらしい。それはもろもろの収差を取り除くことが難しいからで、特に歪曲収差はこれを完全に取り去ることが困難という。また対称形に比べてボケが汚くなりがちで、画面周辺の画質低下も起こりがち。逆に絞り開放付近でも画面の周辺光量は豊富にある。まあこういう特徴も昔の話で、現在はほぼ完全な光学性能を発揮するレトロフォーカス形レンズが登場している。ところでこのアンジェニュー35mm、僕が愛用するのは距離目盛りがフィート表示(対英米輸出用)のエキザクタマウント。他にアルパ用やM42、そして超レアなライカLマウント(相場はエキザクタマウントのおよそ十倍!)などの仕様が存在する。
data:Nikon F90 + Nikkor 50mmF1.2S 1/250sec. F=4.0 FUJICHROME ASTIA(RAP)

船出の前に(2)

 ところで2002年春のある日の日経新聞には、「若者の間で密かに流行るロシアカメラ」なる記事が掲載されていた。
 いくら経済が低迷しているからといって、日本の経済を支える国内生産と消費を推進するメディアの切り口として疑問がないわけではないけれど、それにロシア製のカメラのブームはもう数年前から始まっていて、今さら密かにもないのだけど、この種の話題が大新聞の誌面を飾るのはなかなか興味深いことである。
 流行に敏感なひとたちは、この現象を「若者のドレスダウン」の一変形として片付けるだろう。それも確かにあると思う。
 でも、プロのカメラオヤジの目で観ると、わざわざ不便な機械を使うひとが増えているのは、もっと別の意味があるような気がする。
 それはひとことで言うと、「失敗を楽しむ」ということだ。
 おそらくロシア製カメラ(多くの場合、正確には「旧ソヴィエト連邦」製カメラ)を愛好するひとたちの多くは、一般的な写真機材で手軽に撮れるような写真を撮ろうと思わないし、いわゆるフォトコンで入選するような「上手い写真」を目指してはいないだろう。
 もちろん正統派の写真および写真機材愛好家には、大真面目に、というか正攻法でロシアカメラの研究に励んでいるひとたちも少なくない。でも、リスクの多いカメラを「気分で選ぶ」ひとの多くは、最初からそういう機材に完全性を求めていないような気がする。むしろ生身の人間に近い間違いがあって、機嫌に左右されることも多い「不完全な」キカイを使うことで、リアルな日常を切り取ってみたいと思っているのではないか。

 などと書いているこの僕も、ロシア製をはじめとする古典的な機材はけっこう所有している。いくつかの機種は驚くほど良い写りをするけれど、まあ全般に言えることは、現代の自動化された万能カメラやレンズとは次元の異なる製品だということ。善し悪しではない。設計された時点での技術水準や社会背景が違うのだから、目指すものが違っても無理はないのだ。
 そこでこの連載では、
「あまり難しい理屈を言わない」
(ムズカシイ理屈は作例画像に添えてあります、お好きな方は写真をクリックして拡大表示ページでゆっくりご覧ください)
「欠点をあげつらわない」
 という二点を踏み外さないようにしたい。今の世の中、欠点のある機材を避けることは簡単だ。欠点をカバーするのは面倒で難しい。だから趣味は面白いのだ。

 さて、連載をはじめるにあたっての前口上はこれでおしまい。次週からは愛用の旧式機材を担いで撮影に出ることにしよう。

●作例モデル:脊山麻理子(せやま・まりこ)


2002年05月08日掲載

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