* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文/中山慶太 --->Back Number


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『国立近代美術館工芸館』二階。受付のロッカーに三脚とバッグを預けて階段を上ると、大きな木製のベンチがあった。麻理子ちゃんに座ってもらい、顔のところで露出を取る。EV5、感度100のアスティアだとズミルクスの開放でも1/15秒だ。背景の白飛びを考え、プラス半段とすると1/8秒と1/15秒の中間になる。あいにくM型ライカではここの中間シャッターが使えない。フィルムを増感する手もあったけど、1/8秒で切る方を選んだ。絞り開放で逆光、さすがにコントラストが弱いが、ブレはほとんど目立たない。
data:Leica M3 + Summilux 50mmF1.4  1/8sec. F=1.4 FUJICHROME ASTIA (RAP)



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レンジファインダーの二重像をしっかり合わせたつもりでも、大口径レンズの開放は油断できない。何カットかに1枚はかならずピントの問題がある。この写真で人物、とくに顔や髪のピントが甘い。これは被写体が微妙に動いていることに加え、顔でピントを合わせてから構図を決めたため。膝から下は完全に被写界深度から外れて、ズミルクスのなだらかな前ボケが確認できる。
data:Leica M3 + Summilux 50mmF1.4  1/8sec. F=1.4 FUJICHROME ASTIA (RAP)



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●今週のお題:
『ライカM3 & ズミルクス 50mm』
20世紀を代表する傑作カメラ。1954年、当時の西独・ウェッツラー市に本拠を置く光学メーカー、エルンスト・ライツ社から発売された。成り立ちは35mmフィルムを使用するレンズ交換式レンジファインダー機で、横走り布幕フォーカルプレーンシャッターの制御速度は1秒から1/1000秒。現在の標準からはごく月並みなスペックだが、これ以前のカメラとは操作感覚がまったく異なり、撮影者は余分なストレスのない、洗練された手順で写真を撮ることができる。この練り上げられた操作部は最新のM型ライカでもほとんど不変。ライカM3の偉大な点は性能や精度でなく、高次元のマン=マシン・インターフェースを機械技術だけでつくりあげたところにある。
data:Nikon F90 + Micro Nikkor 105mmF2.8  1/60sec. F=5.6 FUJICHROME ASTIA (RAP)

ライカ、行軍するメカニズム #1

 ワインや料理には分不相応な大金をつぎ込むくせに、カメラ機材はたいして高級なものを持っていない。
 正直にいうと、カメラを新品で買った経験は片手で足りるほどしかない。新品で買えるカメラにはそれほど興味がないし、国産の最高級一眼レフ、いわゆる“プロ用フラッグシップ機”にも縁がない。
 旧いカメラには目がないけど、中古カメラ店のショーウインドーでも、人があまり集らないような隅の方ばかり眺めている。興味を惹かれた機種のことを店員にたずねても、素性がよく分からないことが多い。
 そんな僕の機材棚に、一羽の鶴が棲んでいる。

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「ライカのことを書くんだって? それならいくらでもネタはあるだろう」
「いや、書きたいことはぜんぶ誰かがどこかに書いちゃってるから」
「じゃあ別のカメラにしたらどうだ」
「いちどは採り上げないといけない歴史的なカメラだからね。それなら最初の方でやって楽になっとこうと思って」
「ふうん。お前のボディはM3だっけか。ツーストローク? シングルか。いちばん完成度が高い奴じゃないか」
「完成度ならM4じゃないかな。巻き戻しもやりやすいし、広角レンズを付けてもちゃんとフレームが出るし」
「M3のフレームは50mmまでだもんな。でもファインダーの“見え”はあれが最高だろう。軍艦部の造作も立体的だし」
「手はかかってるよ。あの頃は職人さんが調整しながら組み立ててたらしい。まだ合理化とか効率化とか、そういう世俗の手垢がつく前の機械だから」
「レリーズの感触もあれが最高だよな。俺のM6なんか、スローガバナーが動くときの、あの“カシュッ”って音がしないもん」
「よく調整されたM3ならそうだね。でもM6は露出計が入ってるから、とっさの時に安心で羨ましいよ」
「お前、いつも露出取らないで使ってるじゃん」
「普段はネガで撮ってるんだ。慣れればカンで撮っても大外しはしないよ」
「なるほど、多少露出がずれてもプリントで救えるもんな、ネガなら」
「でもね、たまにどんぴしゃの露出になるときがあってさ。やっぱりちがうんだ。発色も立体感も他のカメラにない雰囲気がある」
「俺はそんな違わないと思うけどな。国産のレンズだって良い色が出るし、解像力は日本のレンズが世界最高だろう」
「そうだね。昔のライカより逆光に強いし、軽いし、さいきんの国産レンズはボケも綺麗だ。ライカやツァイスに負けないよ」
「じゃあ聴くけど、お前さあ」と、友人はひと呼吸置いていった。
「なんだってあんなに重くて、フィルムが詰めにくくて、被写体に寄れないカメラを持って歩くんだ」

●作例モデル:脊山麻理子


2002年06月12日掲載

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