* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文/中山慶太 --->Back Number


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ライカに代表されるRF機が本領を発揮するのは、アベイラブルライトでの撮影だ。スローシャッターでもブレにくい構造のため、“その場の光の状態”で撮れるチャンスが大きい。ただし光のバランスは変えられないので、妥協が必要な場合もある。これは前出の4枚よりシャッタースピードを1段速くした例。背景の窓や壁の露出はこちらの方が好ましく、天井の弱い白熱灯もきちんとわかるけど、人物は明らかに露出アンダー。手前右のサイドから補助光源を入れるか、できれば大型のレフを立てたい。美術館ではどっちも無理、特にストロボを焚いてはいけません。
data:Leica M3 + Summilux 50mmF1.4  1/15sec. F=1.4 FUJICHROME ASTIA (RAP)



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屋外でのカット。逆光ではフラットになりがちなズミルクス50mmも、順光ではほどよいコントラストが出る。このレンズは絞り開放付近で口径蝕の影響が強く、背景の距離によってはボケにクセが出やすいけど、この条件では気にならない。ところで麻理子ちゃんが手にしているのは旧ソ連製の露出計スペルドロフスク4。入射光式と反射光式が両用できるタイプで、絞りとシャッタースピードの組み合わせが直読できるアナログ表示のスポットメーターだ(写真の持ち方は前後が逆です)。測光精度も充分で、露出計を持たないクラシックカメラに好適。
data:Leica M3 + Summilux 50mmF1.4  1/500sec. F=1.4 FUJICHROME ASTIA (RAP)



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●今週のお題:
『ライカM3 & ズミルクス 50mm』
高感度フィルムの性能がそれほど高くなかった時代、明るいレンズは表現上の効果ではなく「暗い場所で速いシャッターが切れる」というプロの要求で開発された。このレンズに冠された『ズミルクス』の名はライカが大口径で展開するシリーズ名で、50mm以外では35mmと75mmがある。開放値がF2の『ズミクロン』よりひと絞り明るいレンズだが、RF機では(一眼レフと違って)ファインダーが明るくなるわけではない。ライカ愛好家の間でもズミルクスの人気はそれほど高くないけど、僕はこのレンズの軟らかい描写が好きだ。 data:Nikon F90 + Micro Nikkor 105mmF2.8  1/60sec. F=5.6 FUJICHROME ASTIA(RAP)

ライカ、行軍するメカニズム #3

「被写体に背筋を伸ばして向かうって? それはどういう意味だ」
「言葉どおりだよ。ライカを持つと、なんかルーズに構えて撮る気がしなくなるんだ。君はそう思わないか」
「いや別に」
「ふうん。いぜん小林彰太郎さんが書いていたんだけど、“ジャガーのステアリングを握ると背筋が伸びる”って。それとおなじかな」
「なんだ、けっきょくイタダキか。ライカとジャガーじゃあ敵国同士じゃないか」
「そういえば、第二次大戦のころはどっちのメーカーも軍需が多かったみたいだね」
「イギリス軍はジャガーじゃなくてデイムラーだろ。それに、民族性もゲルマンとアングロ=サクソンでぜんぜん違うぞ」
「うん、違う違う。イギリス人の方が冗談が通じる。でも根っこはけっこう一緒の部分もあると思うよ」
「どっちの国もビールが美味いしな。それで、どうしてライカだと背筋が伸びるんだ」
「そうだね。巻き上げとかレリーズとか、ピントとか絞りとか。そういう機械的な動きが精密なだけじゃなくて、なんかこう、作動感覚がぜんぶきちっとそろってる感じ。よく訓練された兵隊が行進してるみたいな」
「アブナイ譬えを使うなよ。石が飛んでくるぞ」
「悪い意味じゃないよ。でもさあ、ライカでも特にM3って、理路整然としたメカニズムの精度を徹底的に追及するとこうなります、って見本みたいだろ」
「そうかな。けっきょくそれもブランドへの過剰な思い入れじゃないのか」
「そうかもね。僕はジャガーを運転したことがないけど、ライカって服でいえばイギリスのコートみたいな気がする。アクァスキュータムとか」
「今度はコートか。そういえばあれも、もとは軍用外套だったな」

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 世紀末に登場したRF(レンジファインダー)機が範としたのは、やはりライカだった。新しいRF機のほとんどは、その基本コンセプトの部分で、40年以上前に設計されたM型ライカを超えていなかったのだ。しかも多くの機種はライカと交換レンズが共用できるL/Mマウント。日出ずるところの工業国家が、長いブランクを経てたどりついた着地点としては、ちょっと情けないところもある(レンズの互換性を捨ててAFに挑戦したコンタックスGシリーズ、おなじく独自規格でフルサイズ・パノラマを実現した富士フイルムTX-1は数少ない例外)。ついでに言うと、こういう点に無関心を装うジャーナリズムもどうかと思う。
 ライカの歴史的な価値は、個人の趣味嗜好を超えた普遍的なスタイルを創り上げたところにある。これは写りが立派だとか、作動感触が気持ちイイとか、そういうこととはまた別の問題だ。
 僕の機材棚に棲みついた鶴は、かつての美しい羽も少し汚れている。でも、「そのうち綺麗にしてあげるよ」と言い続けて約束を守らぬ飼い主に、いつも毅然とした表情を見せ続けている。

(この項終わり:次回よりモスクワ5編)

●作例モデル:脊山麻理子


2002年06月26日掲載

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