* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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モノコートのレンズはカラー撮影が考慮されていないので、リバーサルフィルムでニュートラルな発色は望み薄だ(通常はイエロー方向に転ぶことが多いが、ウェルチーニのシュナイダーレンズはなぜかマゼンタが優勢)。この作例からもコントラストが低いことがわかるけれど、趣味で使うならこれは決して欠点ではない。現代のレンズより人物の肌の調子が軟らかく描写され、特にモノクロでは望んだ階調を得やすいと思う。
Welta Weltini II + Schneider Xenar 50mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/250sec. F=5.6



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●プチ連載
『マリコのphoto diary #7』
このくらいの年の子って私にとって未知。写真をとっている私の前をお構いなしに横切っていく。(ETにでてくる男の子もこのくらいの年ですごく子供らしくてかわいかったけど、あれ演技なのだよな、って考えると怖い。)驚いてシャッターを押してしまったのだけど、この写真すごく好き!(撮影:脊山麻理子)
Retina IIIc + Rodenstock Heligon 50mmF2 FUJICOLOR SUPERIA400 Exposure Data:Unknown



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●今週のお題:
『レチナIIIc(ヘリゴン50mm)』
レチナ・シリーズ3は距離計窓のサイズで大窓・小窓の二種類がある。クラシックカメラ市場では前者の方が人気が高く高価だが、実用機とするならこちらの小窓で充分。内蔵のセレン露出計は低輝度に弱いものの、これがあるとやはり使い易い。この機体は麻理子ちゃんの愛機で、レンズはポピュラーなシュナイダー製クセノタールではなく、稀少なローデンシュトック製ヘリゴンを搭載する。このヘリゴンの描写は恐るべきもので、個人的には同一スペックのライカ用ズミクロンに匹敵する名品と思う。
Nikon FE2 + Micro Nikkor 105mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/15sec. F=3.5

 国民カメラ創世記 #3

 ウェルタ社は戦前のドイツに数多くあった中堅の光学機器メーカーで、特に蛇腹を使った折り畳み式カメラにユニークな製品を遺している。先週と先々週の『お題』で紹介したウェルチーニ2は、同社が大戦直前に生産した35mm判スプリングカメラ。日本ではほとんど無名の存在だ。僕も店頭でお目にかかったことがない。
 手にとって感じるのは、その凝縮感である。密度が濃いというか、比重が大きいというか、体積あたりの重量が大きくて手にずしりと重い。縦横奥行きの実寸は85×120×45mm(前蓋を開けると83mm)、重量はおよそ600gだから、現代のAF一眼レフ入門機のボディよりひとまわり以上小さく200g近く重いという、まるで文鎮のようなカメラだ。
 これだけ小さく造ったこと、さらには親しい相手を呼びかけるイタリア語のような名前をつけたことなど、この製品のターゲットは女性と思われる。仕掛けも巧妙で、前蓋を閉じる際にレンズの繰り出しとレリーズボタンが連動し、滑らかに収容されるさまは感動的ですらある(レチナにはこういう感動がない)。にもかかわらず異常に使いにくい。こういうカメラをサクサク使える女性がいたら弟子入りします。前にも書いたけど、これはやはり貴族の洒落た装身具のような存在なのだと思う。
 対するレチナ(独語で網膜を意味する)は高級大衆カメラともいうべき存在で、現在も中古カメラ市場で人気が高い。シリーズの初号機は1934年に発売され、世界で初めてパトローネ入りフィルムに対応したことで知られている*。
 ここで紹介するシリーズ3は戦後10年を経て生産された、レンジファインダーと蛇腹を持つレチナの最終機。縦横奥行きの実寸は87×135×46mm、重量はおよそ650gと、前出のウェルチーニよりずっと大柄で比重が小さい。操作感覚はさすがに米国での量販を意識したといわれるだけのことはあり、マニュアルをひととおり読めば良い写真が誰でも失敗なく撮れる。特に同時代のカメラの弱点とされるフィルム給送には特大のスプロケットギアを配し、ラフに扱っても装填や送り、巻き戻しにトラブルを生じることはまずない。
 誰もが失敗なく撮れ、ラフに扱っても機嫌を損ねないレチナは、おそらく世界初の国民カメラになり得る資質を持っていた。にもかかわらず生産台数の大半は海を越えてアメリカに渡った。富めるアメリカはともかく、当時のドイツ国民には高価に過ぎたのだという。

●作例モデル:脊山麻理子

*注:パトローネ入りフィルムが開発される前、写真愛好家は映画用の35mm長尺フィルムを買い求めていた。これを暗室にこもって切り出し、カメラ毎の専用マガジンに詰め替えて使っていたのである。


2002年08月21日掲載

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