* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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この日の逗子は曇天。フラットになりがちな条件だけど、トーンはちゃんと出ている。海辺の空気感が出るのは良いレンズの証拠。ちょっとラフに撮った。
Meopta Flexaret IV + Belar 80mmF3.5 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/50sec. F=8



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●プチ連載:
『マリコのPHOTO DIARY #12』
メキシコに留学していたときのタクシーがちょうどこんな感じだった。

煤けすぎて前が見えない窓ガラスと、太陽で焼けていい具合に色落ちしたカラフルなボディのタクシー。

Artificial×Work of Nature=SUPER ARTISTIC!
(文/撮影:脊山麻理子)
Meopta Flexaret VI + Belar 80mmF3.5 FUJICOLOR PRO400 (PN400) Exposure Data:Unknown



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●今週のお題:
『フレクサレット二眼レフ』
ファインダー三態。跳ね上げ式ピントフードの内側には焦点板があって、上側のレンズ(ビューレンズ)の背後に45度の角度で固定されたミラーの像(≒撮影像)を等倍で観ることができる(ただし左右は逆像、また二眼レフのビューレンズは絞りを持たないため被写界深度の変化は確認できない)。焦点板、つまりフォーカシングスクリーンはVI型まで旧式の磨りガラスで、画面の周辺光量が不足する。この欠点はVII型のフレネルレンズで解消された。折り畳み式ルーペはピントの微調整用。ピントフード背面に空いた四角い穴は“素通し”のスポーツファインダー接眼部。
FUJI FinePix S1 Pro + Micro-Nikkor 105mmF2.8 Exposure Data:1/10sec. F=8

 モラヴィアの残照、フレクサレット #7

 1968年8月21日、いっさいの事前通告なくチェコスロヴァキアに進入したワルシャワ条約軍は、首都プラハに侵攻する。市民が集う新市街の広場にはソ連軍のT-62戦車がキャタピラの音を響かせ、新体制下の自由を謳歌するひとびとを蹴散らした。広場の端にあるボヘミア守護聖人ヴァーツラフの像の周囲には、民主化を護ろうとする若者が座り込んで抵抗したが、圧倒的な軍事力の前には無力だった。
『プラハの春』は、こうして終わりを告げたのだ。

 その後のチェコスロヴァキアはふたたびソ連の強い影響下に置かれ、東側でもっとも保守的な国家となる。マスメディアは厳しく統制され、反政府活動家は共産党の秘密警察によって次々に投獄された。プラハの春に尽力した多くの文化人が西側に亡命するなか、祖国に残った反体制派は粘り強い運動を続けるが、活動は容易に実を結ばなかった*。
 チェコスロヴァキアの“正常化”を標榜するソ連の圧力は、経済のすみずみにまで及んだ。70年代の初頭には共産圏の経済活動を司るRVHPの決定により、モラヴィア地方のメオプタ社はコンシュマー向けカメラの開発製造を順次中止していく。以後の同社は主としてワルシャワ条約軍向けの光学製品を製造することになり、その売上比率は75%以上にも達したという。
 最後のフレクサレットがラインを離れたのは、ドイツ軍による工場接収から三十余年を経た1971年のことであった。

 それからふたたび三十年の歳月を経て、いま僕のデスクの上には三台のフレクサレットが並んでいる。プラハのカメラ店から航空便で届いたばかりの新顔は、最終型の“VIIa”(シリーズ7の後期型)。たぶんどこかの倉庫か物置で眠っていたのだろう、ほとんど新品同様の状態だ。
 そういえば旧ソ連や東独の光学製品でも、たまにこういうタイムスリップ品に出くわすことがある。それらの多くは需要を無視して過剰に生産されたあげく、倉庫の奥に積み上げられていたデッドストックらしい。東側の社会主義体制がきちんと機能すれば、余剰な生産による過剰在庫を避けることができたはずなのに、だ。
 新顔のフレクサレットは永い眠りを邪魔されて、いささか機嫌が悪い。使われないカメラが機嫌を損ねるのはよくあることだから、いちど分解注油が必要かもしれない。無理にシャッターを押さずにおこうと、カメラを茶色のケースに入れながら考えた。
 いったい東側の計画経済って何だったんだろう。

●作例モデル:脊山麻理子

*注)プラハの春を契機に亡命した文化人のなかで、もっとも名の知れた人物は映画監督のミロシュ・フォアマンだろう。彼はビロード革命前夜の母国に戻ってロケを張り、名作『アマデウス』を撮っている。いっぽう祖国に残った反体制派はひとりの劇作家を中心に活動を続けた。何度も投獄されながら自由化をかち取ったその劇作家こそ、現在のチェコ共和国大統領ヴァーツラフ・ハヴェルである。


2002年10月23日掲載

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