* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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このシリーズの作例は基本的にリバーサルフィルムを使っている。それはレンズの性質がつかみやすく、また失敗の原因(カメラのトラブルか操作ミスか:後者の方がだんぜん多い)を特定しやすいためだけど、たまにはネガも良いかなあ、とプロ400を使ってたまげた。蛍光灯の緑カブリがない! フィルムの進歩は凄いですね。神田明神下、麻理子ちゃんお気に入りの鰻屋さんで。
Meopta Flexaret IV + Belar 80mmF3.5 FUJICOLOR PRO400 (PN400) Exposure Data:1/25sec. F=3.5+1/2



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2002年5月16日、青山スパイラルで開かれた蜷川実花さんの個展パーティにて。まだ髪を切る前の麻理子ちゃん。会場はかなり暗く、旧い二眼レフのファインダーではピントが見えない。拡大ルーペを使うと構図が見えない。顔を軟らかくぼかすなら、左手でなく手前のグラスにピントを合わせるべき。もっと絞ったらどうかって? いや、絞り開放で1/10秒では……。
Meopta Flexaret VI + Belar 80mmF3.5 FUJICOLOR PRO400 (PN400) Exposure Data:1/10sec. F=3.5



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●今週のお題:
『フレクサレット二眼レフ』
左のVI型は35mmアダプターを装着した状態。通常のサプライ側スプール支持シャフトを延長して135フィルムのパトローネを固定、アパチャー部にはライカ判のマスクとガイドレール、圧板が一体化したアダプターを嵌め込む。テイクアップ側スプールも専用品だけど、フィルムはスプロケットギア無しで巻き上げるという、大胆というかかなり強引な仕掛けだ。右のVII型は35mmビューファインダー(パララックス補正機構付き)とB40レンズフードを装着した状態。これらのアクセサリーはきわめて工作精度が高く、特にフードやフィルターの装着感は絶品。
Nikon FE2 + Micro-Nikkor 105mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/60sec. F=4(ストロボ使用)

 モラヴィアの残照、フレクサレット #8

 チェコの二眼レフをテーマに書き始めたら、思わぬ長期連載になってしまった。カメラより歴史の記述が多くなったので、読者にはいささか退屈だったかもしれない。
 でも、クラシックカメラを楽しむということは、その機械が生まれ育った社会や文化もいっしょに手のひらに載せるということだ。機械は人間の思索と思想の産物だから、これを生んだ背景を知れば写真(機)趣味もさらに豊かになるのでは、と思っている。
 では、フレクサレットは歴史的な意味を持つカメラなのだろうか?
 これは研究者によって意見の分かれるところだろう。世界のあちこちで造られた二眼レフだが、そのほとんどはドイツのフランケ・ウント・ハイデッケ社が開発した『ローライフレックス』の影響を受けている。フレクサレットも例外ではなく、これを模倣品のくくりに入れて価値を認めないひとがいても、それは仕方のないことである。歴史をつくるのは工夫でなく創意なのだから。
 フレクサレットならではの特徴として、ボディが小振りで軽量なことと、撮影レンズの下部に突き出した独特のフォーカシングレヴァーを挙げることができる。ローライフレックスに比べて二割から三割ほど軽く、素早いピント調節が可能なことは、あえてこのカメラを選ぶ理由になるだろう。
 こうしたスペックの差異に目を向けるまでもなく、両者が似て非なる存在であることは、カメラを実際に手にとればわかるはずだ。重厚なデザインで存在感を主張するローライをゴシック様式とすると、フレクサレット、特に後期のそれは軽快なネオ・ルネッサンス様式のようにも見える。 神々の威厳ではなく人間性に重きを置いたデザイン、といえば聞こえは良いけれど、それはボヘミア特有の“トロンプ・ルイユ”(石壁を彩色して立体的に見せるだまし絵)で飾られた建築にも似て、どこか実体がなく儚げである。
 フレクサレットの特徴をもうひとつ挙げると、マルチフォーマット対応がある。基本の6×6に加え、6×4.5、そして35mmフィルムを装填して“ライカ判”を撮ることができるのだ。このアイデアはローライにもあるし、中判二眼レフのボディで35mm撮影などナンセンス、という声もあるが、これはライカ判の高機能機を造らせてもらえなかったメオプタ社の、チェコ国民に対するささやかな贈り物だと僕は思っている。
<  本文中でも触れたが、このカメラはチェコのモラヴィア地方にあるメオプタ社が生産した。同社は今も健在で、ワルシャワ条約機構が消滅したあとも軍用の光学機器を手がけるいっぽう、写真愛好家向けに引き伸ばし機などを造っている。
 チェコスロヴァキアは89年の本格的な民主化(ビロード革命と呼ばれる)を経て、現在はチェコ共和国とスロヴァキアに分かれているのはご存知の通りである。

(この項終わり:次回は「特別編」として脊山麻理子さんの作品を特集します)

*本稿の執筆にあたり、カメラ研究家の倉持伸之氏、在スロヴァキアのGejza Dunay氏のご協力をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。

●作例モデル:脊山麻理子
(プチ連載「マリコのPHOTO DIARY 」はお休みです。次週をお楽しみに。


2002年10月30日掲載

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