* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文/中山慶太 --->Back Number  写真/脊山麻理子


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ここのマンションに住んで、好きな洋服を着て、好きな人からの手紙を待って、好きな時間に屋上からマルセイユの海を空を見て、大好きな眩い太陽の光にやられて、芝生の匂いをかいで、好きなお菓子を買って、美味しいお料理を作って友達とパーティーをして、疲れてベットの上でごろごろして、優雅なバスタイムを楽しんで、秘密のデートをしちゃったりして、そんな毎日を過ごしている私を想像してどきどきしながら歩いた廊下にあった郵便受け。こんな色の郵便受けならきっと素敵な手紙が届くと思う。
(文・脊山麻理子)



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マンションの中にBARがあるなんてすごく最高だと思う。高くて歩けないほど繊細なピンヒールのミュールを履いてここのBARで秘密の密会したりできるし、すごく酔っ払っても帰れるかしらなんて気にしなくてすむし、コーヒーを飲みに行って朝のあいさつを交わしながら新聞を読んだりもできるな、なんて考えながらトレーの上に乗っていた新聞紙を眺めてた。
(文・脊山麻理子)



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BARの椅子って床に足がつかないところがポイントだと思う。現実感を無くしてくれるし、洋服を可憐に見せてくれるし、座っている姿が絵になるようにしてくれる。でもこの写真では椅子が引き立て役どころか完全に主役を演じてる!How Beautiful You Guys !
(文・脊山麻理子)

東京レトロフォーカス Special Edition
『 50ミリの才能 #1』


 写真は怖いメディアである。
 なにが怖いかというと、撮影者の資質をストレートに見せてしまうからだ。
 楽器を初めて持ったひとはまともに音階を出せないし、絵画はデッサンとかの基礎を積むと積まないとで、表現力が格段に違ってくる。つまり練習でウマくなる可能性がたっぷりあるかわりに、最初はヘタである。
 写真は違う。カメラを持って間もないひとでも、音楽や絵画とは比較にならないほど高いレベルで表現ができてしまう。フィルムを二三本通しただけの初心者が、ベテランを打ち負かす可能性だってある。
 もちろん写真にだって、経験と修練は必要だ。でも、表現としてのフォトグラフィーをつきつめると、それは人間の目の延長線上にあるものだといえる。「見たものをどう撮るか」という技術は修練で向上するけれど、「なにを見るか」という直感やセンスは容易に磨かれないものだ。
 だから写真は怖い。その怖れとは、とどのつまりは自己の才能に対する不安の現れでもある。

 モデルの脊山麻理子さんがこの夏に渡欧する前のこと。「あのカメラ、持っていっても良いですか」という。僕が貸しているレチナのことだ。
「旅行でスナップ撮るなら、もっと使い易いカメラにしたら」と提案したのだが、いえやっと慣れてきたところだからと、そのままレチナを持って旅立っていった。
 彼女にあのカメラを渡したのはほんの数ヶ月前である。この連載をはじめるにあたって、脊山さんとはモデル以外にもいろいろな関わり方をしてもらう約束をしていた。けっきょくそれは連載のなかの連載、フォトダイアリーという形に落ち着いたのだけど、正直なところ最初は失敗写真の連続になると予想していた。ふだんデジカメしか使わない若いムスメに、古典的機材は手にあまると想像したのだ。
 ところが彼女は初めてレチナに装填したフィルムで、いきなり完成度の高いスナップを連発して見せた。逗子の海岸で撮ったその写真は『ジャバラの時代』『国民カメラ創世記』に掲載されたので、ご覧になった読者も多いだろう。ちなみに僕は基本的な操作法だけ説明して、あとはまったく助言していない。
 前回の二眼レフ編ではさすがに勝手が違って苦戦していたけれど、そのセンスはやはり認めないわけにはいかない。読者からも「脊山さんの作品をもっと見たい」という声が寄せられたのだ。
 そこで今回からしばらくの間、月1回のペースで『麻理子のフォトダイアリー・ヨーロッパ編』をお届けする。この間のプチ連載はお休みするので、ご了承いただきたい。

 こうして彼女が撮った写真をまとめて観ると、とても素直に世界を切り取っていることがわかる。そしてその写真は、どれも生身の人間の視線を感じる。これは彼女が使うレチナが、50mmの標準レンズを持っていることと無関係ではないだろう。
 その因果関係についてはまた次回で書くとして、彼女がレチナのファインダーを通じてなにを見たか。そのフレッシュなまなざしを追体験することは、写真経験が豊富な方々にもけっして無駄ではないと思う。いや、彼女に学ぶべきはこの僕かもしれない。

※脊山麻理子さん撮影の写真を特集する『50ミリの才能』次回は12月末に掲載します。次号より3機種連続で語り継ぐ『クラシック一眼レフ編』がスタート、ご期待ください。


2002年11月06日掲載

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