* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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今シリーズは横浜中華街で撮影。ロケ当日は雨だったけど、僕は雨天の色温度が高い発色もけっこう好きである。ツァイス・イエナ製の標準レンズ、ビオターは同時代のテッサーよりも繊細で軟らかい描写が持ち味。58mmという“長め”の焦点距離もポートレートに向いている。ロケの合間に中華料理をフルコースで平らげて満足げな麻理子ちゃん、手にしているカメラは次回の「お題」。
Zeiss Ikon Pentacon + Carl Zeiss Jena Biotar 58mmF2 FUJICOLOR SUPER400 (SP400) Exposure Data:1/60sec. F=3.5



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横浜港から山下公園に向かう水上バスにて、この日はほとんど貸し切りの移動スタジオ状態。15分の航行中にフィルムを2ロール半消費した。このカットは麻理子ちゃんが持つペンタコンと同時代のRF(レンジファインダー)機で撮影、余裕で全身を入れたつもりが右肘と爪先が切れた。RF機のファインダーでは厳密なフレーミングができないためで(M3で28mmは外付けなのでなおさらだ)、ここが一眼レフとの大きな違いである。
Leica M3 + Elmarit 28mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/30sec. F=4



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●今週のお題:
『ペンタコン(コンタックスD)+M42レンズ』
コンタックスDの原型は1949年に発売されたコンタックスSで、これが世界初のペンタプリズム内蔵型一眼レフである。このD型は1952年のライプチヒ見本市で発表された小改良版。外観上は巻き戻しノブの横に移設されたシンクロターミナルが特徴だ(S型のターミナルは三脚ネジ穴の奥にあった!)。なお僕が所有する機体は『ペンタコン』だが、おでこのロゴとシンボルマークが違うだけでコンタックスDと同一。そのあたりの事情と恒例の機体写真は次号よりの連載に譲って、今週はエルマリートの作例をもう一枚。
Leica M3 + Elmarit 28mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/30sec. F=4

 ペンタプリズムの革命 #1

 その昔、発明家と政治家は「偉人」だった。
 と、非礼を承知しながら過去形で書いてしまうのは、さいきんこのふたつの職業が昔ほど光を放っていないように思えるからだ。志望者が少ない、と言い換えてもいい。嘘だと思うひとは、職業別電話帳で引いてみて欲しい。そういう職種は容易に見つからないはずだ。そういえば昔はエジソンとワシントンと福沢諭吉の伝記が小学校の図書室に備えられていたのだけど、今はどうなんだろう。
 では憧れの職業としての発明家と政治家がなぜ廃れたのか。発明と政治の仕事が苦労ばかり多くて、ビジネスとして割に合わないからか。タレント活動ばかりしているアマチュアが増えたためか。それとも、父親の桜の樹を切り倒したことを正直に告白しても、誰も感心してくれない*からだろうか。
 理由はいっこうにつまびらかでないのだが、僕の独断では、このふたつの職業で社会に革命を起こす余地がほとんどなくなってしまったからだ。ついでに調べたが、電話帳には「革命家」という職業欄も存在しないようである。
 翻ってみれば、これはカメラの世界にも言えることだ。手動から自動へ、アナログからデジタルへと技術革新は続いているけれど、革命は滅多に起きない。「革新」的な政治手法や発明ではもはやインパクトが足りないとわかっていても、人生に真摯に向き合うひとほど「革命」という言葉を使いたがらないのは、「IT革命」を声高に叫ぶ政治家が実はケータイとピッチの違いも知らなかったりするからだろう。いや本題はカメラのことだったのだが、とりあえずイノヴェーションはあってもレヴォリューションが足りないのは、単純な思想やムーヴメントでは動かせないほど社会や技術のシステム化が進行して、一つひとつの要素が複雑に絡み合ってしまったためだと思う。
 それでは、写真機の歴史で最後に起きた革命はなんだったのか。AE(自動露出制御)かAF(自動焦点制御)か、それともバーコード……じゃなくて、視線入力か。どれも優れた発明だけど、革命と呼ぶにはちょっと弱く感じるのは、こうした技術の目的が失敗を少なくしたり速写性を高めたりという、いわば写真術の本質からすこし離れたところにあるからだ。ついでにホンネを書くと、そういう技術の恩恵を僕があまり受けていないこともある。
 歴史的に最後か否かはともかく、僕が真の革命として評価したいのは、およそ半世紀前のカメラにはじめて搭載された技術である。これこそ写真術の本質に迫るものだった、という話は次号以降で書くとして、その発明を支えた部品は重さ百グラムほどの硝子のカタマリである。正面および側面から観て五角形に成型研磨されたそのパーツは、独特の形状から「ペンタ(五角)プリズム」と呼ばれた。

●作例モデル:脊山麻理子

*注)念のために記しておくと、これはアメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンご幼少の頃の逸話。「正直者は偉くなる」という子供向けの精神訓話として有名だが、べつだん褒められた話ではないと思う。


2002年11月13日掲載

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