* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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甘栗屋さんの店頭で食べまくる麻理子ちゃん。彼女はなんとこの日まで甘栗の正しい剥き方を知らなかった。大丈夫か! マリコ。
Zeiss Ikon Pentacon + Carl Zeiss Jena Pentacon Auto 29mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/30sec. F=3.5



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今週の作例2点は不可思議な焦点距離の広角レンズで撮影。前玉の外周には由緒正しきカールツァイス・イエナ銘が入っているけど、実はゲルリッツのマイヤ(メイヤー)製オレステゴンと同一製品らしい。VEBペンタコンは80年代に入って市場競争力が低下し、安易なブランド商売に走っていた。真の製造元はともかく、けっこう良いレンズである。元祖シウマイ? のお店で。
Zeiss Ikon Pentacon + Carl Zeiss Jena Pentacon Auto 29mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/30sec. F=3.5



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●今週のお題:
『ペンタコン(コンタックスD)+M42レンズ』
これが名高いコンタックスの“陣笠”と“土星の輪”。その実体はシャッタースピード設定ノブと表示ダイヤルで、背面のスイッチで高低の速度域を切り換えると土星の輪の左右に指標が表示される(写真は高速側1/50秒に設定)。この時代のメカの通例として表示ダイヤルはレリーズとともに回転するが、それをショーウィンドーのように飾って見せたのがミソ。惑星直列を思わせる配置の妙といい、理詰めのメカが多いツァイス・イコン社のカメラには珍しい洒落っ気が感じられて興味深い。スローガバナーの作動音は“ネズミ鳴き”の異名を持つレンジファインダー版コンタックスを思わせる。
Nikon FE2 + Micro-Nikkor 105mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:2sec. F=11

 ペンタプリズムの革命 #3

 ウェストレベルファインダーがなぜ左右逆像になるのか。それはレンズの原理によるものだ。レンズに入射した光は鏡胴内で屈折を繰り返し、カメラボディ側に上下左右が逆転した状態で出力される。実際にカメラの結像面(=フィルム面)でも上下左右は逆転していて、これは大判カメラのピントスクリーン上でも観察できる。
 第一世代の一眼レフでは上下の逆転を鏡によって復元できるが、左右を入れ替えることはできない。三脚などに固定したカメラで撮影するなら、これは大した問題ではないともいえる。事実、このタイプのファインダーは今も多くのスタジオ系プロカメラマンに使われている。しかし一般の写真家がファインダーを見ながら構図を決める場合、左右逆像というのは恐ろしく使いにくいものだ。
 では、どうすればファインダー上に完全な正像を得られるか。半世紀以上も前の光学技術者が出した答えは、どこか奇術のトリックを思わせるものだった。五角断面のプリズムで像の左右を入れ替えてしまうのだ。
 ペンタプリズムの正式名称は「ペンタゴナル・ダハプリズム」という。ダハ(dach)は独語で屋根の意味で、ガラスのプリズムはその名の通り三角屋根を持つ家、というか犬小屋を押しつぶしたような形をしている。それぞれの面は精密な研磨によって平滑に仕上げられ、そのうちふたつの面を除く全体は化学処理で鏡面加工が施される。といっても、鏡の面は内側を向いているので外観はただの黒いカタマリだ。
 このプリズムがどういう役割を果たすかというと、ボディ側のミラーから導かれた光線を三角屋根で左右別々に反射させ、前面で合成して再度反射し、背面の開口部(ファインダー接眼部)に出力するのだ。文章にすると難しく思えるけど、鏡台の鏡を直角に開いたところで左右正像が得られる、あの理屈である。ネタをバラせば単純なトリックだが、鏡に映った像という二次元の情報をガラスブロック内で三次元的に処理するところに、奇術師ならぬ技術者の狡知があった。
 さてここで疑問がひとつ。鏡を組み合わせて正像を得るなら、真ん中に継ぎ目が出来てしまうのではないか? そう、ペンタプリズムが提供する像は中央に継ぎ目があるのだ。この継ぎ目を目立たなくするためには高精度の成型研磨技術が不可欠……と書きたいところだが、実際に接眼部を覗くと多少の継ぎ目はまったく感知されない。 これは人間の目が至近距離に焦点を合わせられないためだ。

 世界で初めてこのペンタプリズムを実用化したのは、戦前ドイツのツァイス・イコン社*である。ドレスデンに本拠を置く同社では、1930年代の後半にペンタプリズム付きファインダーを商品化した。もっともそれは二眼レフのアクセサリーという形であり、元来ウェストレベルでの操作を前提とするカメラにはあまり有用でなかったようだ。やはり本命は一眼レフ**に違いなく、ドレスデンの技術者もペンタプリズム内蔵を前提とする完全なパッケージを目指していた。
 ところが、第二世代の一眼レフが日の目を見るまでにはさままざな障害が立ちふさがった。なかでも深刻だったのは第二次大戦下で研究開発が軍需寄りのシフトを余儀なくされたことであり、続く戦後にドイツが東西に分割されたことだった。ツァイスの社屋と工場は、そのほとんどが東側に位置していたのだ。

●作例モデル:脊山麻理子

*注1)ツァイス・イコン社は総合光学メーカーとして名高いカール・ツァイスの子会社で、ツァイスのグループ内にあってカメラ製造を主業務としていた。第一次大戦後の1926年にカメラおよびレンズのメーカー4社(エルネマン、イカ、ゲルツ、コンテッサ・ネッテル)を統合して誕生し、1970年代まで活動を続けた。

**注2)一眼レフの機能はペンタプリズムと不可分で、ほとんどの機種が伝統的にこの型式のガラスブロックを内蔵している。ただし最近のカメラは鏡面板ガラスの組み合わせでプリズムと同等の機能を持たせている場合もあり、“ペンタミラー”と呼ばれるこの型式は重量軽減に一役買っている。また独創的な設計で名高いハーフサイズカメラ『オリンパスペンF』(天才エンジニア・米谷美久氏の設計)は横向きのミラーと“ポロプリズム”を組み合わせた光学系を採用し、一眼レフ特有の三角屋根をもたないスマートなデザインを実現している。


2002年11月27日掲載

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