* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers
東京レトロフォーカス


  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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開放から1段ちょっと絞って撮る。周辺光量落ちが皆無なのはレトロフォーカス型レンズの特徴で、対称型だとこうはいかない。僕は周辺が落ちるレンズが大好きだけど、こういうシチュエーションには周辺まで均一なレンズの方が向いていると思う。
Ihagee EXAKTA Varex IIa + Angenieux R1 35mmF2.5 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/100sec. F=4



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ブローの合間に、ちょっと大人っぽい表情をするセヤマ・マリコ嬢。普段はレプリカントみたいに左右対称だと思っていた彼女の顔も、こうやって鏡像を観ると微妙に印象が違っていたりする。やはり神の造形は非対称なのか?
Ihagee EXAKTA Varex IIa + Angenieux Y12 90mmF2.5 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:1/100sec. F=2.8



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●今週のお題:
『エキザクタ・ヴァレックス』
これほど見事にデザインされた底面を持つカメラは空前絶後だろう。三つの円を繋ぐクロームのラインは画家カンディンスキーの好んだモチーフそのものだ。このモールはシャシーのダイカストと裏蓋に直接メッキされており、アルミ合金にメッキする技術はこの当時確立されていなかったはずだから、材質は亜鉛合金か? エキザクタは重いカメラとして知られるが、イハゲー社は軽量化より強度とデザインを優先したのだろう。裏蓋に設けられた枠と小さな四角は、それぞれフィルム圧板とスプロケットギアの逃げ。
Nikon FE2 + Micro-Nikkor105mmF2.8 FUJICHROME ASTIA (RAP) Exposure Data:2sec. F=11

 デザインの時代 #6

 バウハウスデザインを代表する物品は何だろう。先に記したように、彼等の活動は建築やグラフィックデザインなどの商業アートから、絵画彫刻などの純粋芸術まで広範なジャンルをカバーしている。二十一世紀の今日でも、僕らの身のまわりにはバウハウス的なデザインが溢れているのだ。
 デザインのオリジンを知らないひとでも、必ず観ているはずのバウハウス物品に『ワシリー・チェア』という椅子がある。この活動の中心人物であったマルセル・ブロイヤーが、おなじくバウハウスの重鎮である画家のワシリー・カンディンスキーのためにデザインしたという、金属パイプと帆布を組み合わせたアームチェアである(現在もミラノの家具工房で布を皮革に置き換えてリプロダクトされている)。
 この椅子がデザインされた1925年、シンプルなスチールパイプを折り曲げて家具を造る試みは充分に先進的であり、その連続する直線をアールでつなげたハイテックなデザインは、観る者すべてに“クロームメッキの未来”を予感させたはずだ。円と直線のモチーフを好んだカンディンスキーが愛用したという伝説も、あながち根拠のない風説ではないだろう。

 さて、ベスト判からヴァレックスに至る歴代エキザクタのボディにはひとつの特徴がある。それはオムスビ型のボディを縁取る金属のモールで、それまでのカメラにあまり用いられなかった分厚いクロームメッキが施されている。初期のベスト判においてはボディと軍艦部の接合面を光らせる装飾に過ぎなかったのだけど、ライカ判のキネ・エキザクタではカメラの天地左右の全周を取り巻き、強度の弱い塗装に代わってボディを保護する役目も負っている(のちにハッセルブラッドがこのデザインを模倣した)。この底面や背面を走るクロームのトリムラインは、ブロイヤーのパイプ椅子のイメージにきわめて近い。
 もちろんこの装飾ひとつを採り上げて、ここでエキザクタとバウハウスの近似性を強弁するつもりはない。むしろこの縁取りが明らかにするのは、カメラの骨格である。機能を強度のある骨格で包み、そこに外皮を組み付けるという、これは建築にも通じるデザインだと思う*。しかもそこには純粋芸術の道具に相応しいデザインコンセプトがあり、これに融和する機械設計技術があったのだ。
 思うに、イハゲー社はバウハウスの形態を模倣したのではなく、その「モノづくりの哲学」から、インダストリアル・デザインの精神を学んだのである。金属に精密な加工を施し、それを量産に乗せるだけなら他のカメラメーカーが実現している。だがエキザクタのシンメトリックな造形はメカニズムの必然でなく、クロームのトリムも単なる装飾ではない。機能と装飾が融合したそのデザインこそ、“芸術と工芸を統合する”バウハウスの精神に忠実といえる。その意味で、このカメラは事実の記録者ではなく、芸術に奉仕する人間の道具にこそ相応しい**ように思えるのだ。

●作例モデル:脊山麻理子
●撮影協力:表参道 BOY U(03-5411-1350)

*注1)エキザクタはごく初期の段階からダイカストのシャシーを採用しており、バヨネットマウントはこのシャシーに組み付けられた。これはライカなどの板金シャシーに比べ量産で精度が出しやすいという利点がある(ライカは1940年のIIIcからこの構造を採用)。また軍艦部カバーも巧妙に分割され、コストのかかる深絞りのプレス成型部品を避けていた。

**注2)エキザクタの登場する有名な映画に、ヒッチコックの『裏窓』(1954)がある。ジェームス・スチュワート扮する主人公(脚を怪我したカメラマン)が暇潰しに隣のビルを覗き見する、という設定で、その覗き見の道具として超望遠レンズ(キルフィットの400mm)を装着したエキザクタVXが使われていた。この映画は大ヒットを記録し、「超望遠レンズが使えるエキザクタ一眼レフ」の宣伝になったはずだが、パパラッチ的ピーピングギアという役回りにはイハゲー社も苦笑したことだろう。なお画面上でエキザクタのロゴは黒く塗りつぶされている。


2003年02月19日掲載

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