* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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上野・不忍池の食堂であんみつを食べまくるセヤマ・マリコ氏。窓の外にひろがるのは蓮の池、亀の親子が泳いでおりました。
Arsenal Kiev-10 + Mir-20 20mmF3.5 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/30sec. AE



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フィルムを交換している間にあんみつが消えてしまいそうだったので、上掲のバリエーションをレタッチソフトでモノクロ化。電子暗室にはカラーネガが使い易い。色を抜いただけでガラリと雰囲気が変わる麻理子ちゃん(実際にはコントラストの部分調整などかなり手を入れてあります)。
Arsenal Kiev-10 + Mir-20 20mmF3.5 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/30sec. AE



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●今週のお題:
『キエフ10』
西側のどんなカメラとも似ていない、いや似ることを徹底的に拒否して造られたカメラ。発表後40年近くが経過した現在でも充分に新鮮で、むしろ年を経る毎に新しさが増していくような不思議なフォルム。あきらかに破綻と思える線や面が目線をずらすと調和をうみ、魅力に変わる。どの角度から撮るか、これほど悩んだ経験はそれほど多くない。東西を問わず、これは真に歴史に残るカメラデザインだと思う。
FUJIFILM FinePix S2Pro + Micro Nikkor 105mmF2.8 Exposure Data:/4sec. F=16

 恐竜の時代 #6

 1958年、西ドイツ・ケルンで催された国際カメラ見本市「フォトキナ」で1台の試作カメラが発表された。
 出品者は戦前のドレスデンおよびイエナから戦後シュツットガルトに移転したツァイス・イコン社。彼等が持ち込んだカメラは強い光沢を放つ白銀色のボディを持つSLR(一眼レフ)で、そのペンタ部正面には、サイクロプス(一つ目の巨人)の目のような丸窓が開けられていた。のちに“ブルズアイ”の異名で呼ばれる「コンタレックス」I型である。
 このカメラを観たひとびとは、いよいよ戦前のツァイスが戻ってきたことを実感したはずだ。ドイツの分割と同時にこの会社は東西で別々の企業として再出発したものの、その製品は戦前ツァイスの完全主義をあまり感じさせない無難なものが多かったのだ。
 雌伏すること十数年、西ドイツ工業と経済の奇跡的な復興を背景に開発されたコンタレックスは、ツァイスの遺伝子を強く感じさせる過剰感に満ちたカメラとなった。同機の最大の特徴はSLR初の「連動露出機構」、すなわちカメラに載せられた露出計がシャッター速度の設定値とレンズの絞り値に連動し、露出計の指針を振らせるシステムである(それまでのカメラは露出計が示した設定値を読み取ってカメラに移し替える「非連動露出計」を載せていた)。レンズの真上に置かれた丸窓は露出計の受光部で、内部には絞りダイヤルに連動する小型の絞りが置かれていた。
 操作系も革新的で、ペンタ部の真横に置かれた露出計の指針を見ながら右手指でシャッター速度と絞りを設定する方式だ。つまり露出と被写界深度を決める操作をボディ側のダイヤルで行う*ことが可能なわけで、これは現在のAFカメラに通じる。コンタレックスによって、写真撮影は本格的に電気の助けを借りる時代になったのだ。
 いっぽう、戦前ドイツでツァイスの好敵手だったライカはどうしていたか? 彼等は新しいM型でビジネスを順調に展開していたから、このカメラをさほど脅威と感じなかった。「これからの主流は電子化されたSLRになる」と予測し、戦後新たに開発したコンタックスRF(レンジファインダー)機の生産をうち切ったツァイスに対し、ライカはマニュアルRF機の未来を信じていたのだ。ツァイスの予測は結果として正しかったが、彼等は戦前には存在しなかったライバルを見落としていた。安価で信頼性が高く、電気の応用に賢(さと)い日本製カメラを。

 他方、東側の盟主たるソ連のカメラ技術者たちにとって、コンタレックスは別の意味で脅威であった。彼等には西側のカメラとおなじ市場で争う必要はなく、またSLRとRFのどちらかに社運を賭ける必要もなかったが、「資本主義社会と同等以上の製品を、より安価に国民に供給する」という命題が与えられていたからだ。
 ツァイスの最新技術を解析し、それを越えた製品を造る。この困難な使命を与えられたのは、戦前ツァイスの生産技術を移植したウクライナの光学工場、アーセナルの技術者たちだった。
 幻の恐竜、キエフ10の開発はこうしてスタートする。

※次号は「脊山麻理子さん撮影のバンコク特集(3)」をお送りします。

●モデル:脊山麻理子

*注:コンタレックスは絞りをボディ側から制御するためレンズに絞り環が存在しない。ボディ側との連動は機械的に行われるが、これを電子化したシステムが最新のAFカメラに搭載されている。絞りダイヤルはマウント斜め上(戦前からのコンタックスRF機がフォーカシング・ギアを置いた位置)に設置された。


2003年09月24日掲載

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