* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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明るめの背景は初期の自動露出に厳しい条件。ここではマニュアルに切り換えて+2段の補正を加えている。キエフ10の外光式露出計からTTLに進化したことで、キエフ15のメーターはより精度が高くなった。
Arsenal Kiev-15 + Jupitar-9 85mmF2 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/60sec. F5.6



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……とはいえ、やはりリバーサルを使うときは段階露出が基本。表情がくるくる変わる麻理子ちゃんを古いカメラで撮るのは、けっこう大変なのだ。最新のカメラなら楽ちんなんだけどね。
Arsenal Kiev-15 + Jupitar-9 85mmF2 FUJICHROME ASTIA100F (RAPF) Exposure Data:1/250sec. F2.8



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●今週のお題:
『キエフ15』
鬼面人を驚かすキエフ10から、遙かにまともな(カメラらしい)カメラへと変身したキエフ15。それでも類型的でないデザインは健在で、70年代の西側SLRとはまったく雰囲気が違う。ちなみにレリーズのストロークは突き出たノブの高さ分だけあり、絞りを駆動するメカの抵抗も10より大きく感じるためカメラブレを招きやすい。なるべく低速シャッターは避けた方が無難だろう。
FUJIFILM FinePix S2Pro+ Micro Nikkor 105mmF2.8 Exposure Data:1/4sec. F=16

 恐竜の時代 #11

 キエフ10の発表からさかのぼること5年、東京豊島区のカメラ部品メーカーがあるパーツを開発した。それまでレンズシャッターを専門に製造していたコパル光機(現・日本電算コパル)が、はじめて手がけたフォーカルプレーンシャッター「コパル・スケア」である*。
 コパル・スケアに代表される形式は「縦走りメタルフォーカルプレーンシャッター」と呼ばれ、その発展形は現在のSLRのほとんどが採用している。動作原理はたいへん巧妙かつシンプルで、シャッター幕を複数の羽根に分割して……と、難しい説明をするよりも日本家屋の襖(ふすま)を思い浮かべていただきたい。あれとおなじである。それまでのシャッターがロールブラインドのように動くのに対し、こちらはなんとも日本的な発想といえるかもしれない。
 1960年に登場したコパル・スケアは、カメラの成り立ちにも影響を与えている。それまでのフォーカルプレーンシャッターがカメラ本体に“作りつける”メカであったのに対し、こちらはユニット化されたパーツがアッセンブリーとして供給されるため、カメラメーカーはこれをラインで組み付けるだけで済む。コパルは自社が得意としたレンズシャッターと同様の「ユニット化」という思想をフォーカルプレーンシャッターに応用したのである。カメラ生産の現場では、このシャッターが登場したあたりから“アッセンブルされたパーツを組み上げる”日本的な製造法が主流になっていく。

 優れたデザインは必ず亜流や模倣を生むものだが、コパル・スケアに類似した製品はほとんど生まれなかった。これは当時のもうひとつのカメラ大国、西ドイツのメーカーが急速に力を失っていったこともあるだろう(コパルのWebサイトには「コパル・スケアはデファクトスタンダードとなった」と記されている)。だが、このシャッターに対抗するアイデアは本当に存在しなかったのだろうか?
 ここで話はようやくキエフに戻る。アーセナルの技術者が開発したシャッターは、コパル・スケアを意識しつつ、しかしまったく別の方式でフォーカルプレーンシャッターの金属幕化を実現している。その構造は扇状に配置した金属羽根(先幕・後幕それぞれ3枚)をひとつの支点で支え、円弧状に動かすというユニークなものだ。複数の金属羽根を動かす点、羽根を重ねて収容する点はコパルに似ているが、動作原理はまったく別物だ。おそらく特許にも抵触していないだろう。
 僕も話には聞いていたし写真も観ていたけど、実機を手にしてシャッターをこの目で観たときは驚いた。金属幕が金色に輝く理由は何か? 扇状のスリットは露光ムラを生じないのか? このメカニズムの必然はいったいどこにあるのか?
 完全に納得のできる答えはいまだに出せていないけど、とりあえずの推理は次号で書くことにしよう。だが最大の驚きは、この異形のメカでちゃんと写真が撮れたことかもしれない**。

●モデル:脊山麻理子

■本稿の執筆にあたってはロシアカメラ研究家の三枝史明氏が運営されるWebサイト『Old Soviet Camera Guide』より多くの示唆をいただきました。


*注1:レンズシャッターはドイツの二大メーカー、デッケルとゴーティエが多くの基本特許を保有し、それぞれ「コンパー」「プロンター」というブランドで発売していた。日本ではコパルとセイコーがこの流れを汲むシャッターを製造している。

**注2:キエフ10/15によくあるトラブルにシャッター幕の粘りがある。今回の撮影でもたまに現れた画面上のホットスポットはこれが原因。これは油脂の劣化が原因らしい。


2003年11月19日掲載

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