* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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巨大な天窓から射し込む光が大理石の彫像を浮き上がらせる。世界中に美術館は星の数ほどあれど、建物そのものが絵になるという点ではこのオルセー美術館が白眉ではなかろうか。パリの旧い駅舎を改装した建築は自然光が満ちあふれ、優しい光と影はモノクロ撮影にぴったり。
Leica M3 + Elmarit-M 28mmF2.8 FUJIFILM Neopan 400 Presto Exposure Data:1/60sec. F8



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こちらはイタリア、フィレンツェ市の旧い役所を改装したウフィツィ美術館。レオナルドの「受胎告知」はこの廊下の左の部屋にある。木造の柱や梁をそのまま残した内装は、石造りが多い欧州の美術館では異色の存在で、撮影レンズになるべく歪曲の少ないものを選びたい。背後から人が通り過ぎる瞬間を待って撮った。
Leica M3 + Schneider Super-Angulon 21mmF4 FUJIFILM Neopan 400 Presto Exposure Data:1/60sec. F4



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お忍びのVIPに忍び寄る暗殺者? 超広角レンズは室内の風景をドラマチックに変えてくれるけど、強烈なパース感を意識して構図を決めないと不自然な絵になりやすい。なるべく水平に構えることが肝要。この写真は画面左側のトーンを落とし、右側の窓からの光が床の反射を浮き上がらせるように調子を見ながら焼き込んだ。ウフィツィ美術館にて。
Leica M3 + Schneider Super-Angulon 21mmF4 FUJIFILM Neopan 400 Presto Exposure Data:1/60sec. F11

東京レトロフォーカス Special Edition
『古典カメラでモノクロ』


 旧いカメラにモノクロが似合うのはなぜだろう。
 そこにはふたつの理由がある。ひとつは黒の革張りと銀色のメタル外装を持つカメラを手にすると、それだけで上質のモノクロが撮れそうな気がすること。まあ思い込みというか、ほとんど妄想である。
 もうひとつは、昔のカメラにはモノクロフィルムでの撮影を前提に設計された機種が多いこと。これは言い換えればカラーの撮影、特に露出がシビアなリバーサルには向いていないということでもあるけれど、それは言い方の問題だ。モノクロ撮影に必要充分な機能を持って、それ以外に余分なことを考えさせないカメラはそれだけで価値がある。モノクロ撮るだけならオートブラケット*なんかいらんよ。
 冗談や皮肉ではない。真面目なハナシ、モノクロフィルムで風景やスナップなどを撮るだけなら、AFやAEなどの自動制御はおろか、露出計も不要なケースは多々あるのだ。え? 絞りとシャッタースピードはどうやって決めるかって? 心配ご無用、答えはフィルムのパッケージの内側をご覧ください**。
 誤解を恐れずに書けば、いや誤解されるのは困るので遠慮がちに書けば、もともと写真撮影はけっこうアバウトな行為だった。光を読んで、だいたいこのあたりかな、と思ったらそこでシャッターを押す。これでフィルム上にはちゃんと陰影のグラデーションがアバウトに記録される。そのグラデーションをいじって観賞に堪える写真にするために、昔はみな暗室に籠もるヒマと根気を持ち合わせていたのだ。露出にシビアなのは時間を惜しむプロであって、アマチュアは暗室作業そのものが目的だったりした。アバウトなネガから適正なプリントを得るのはけっこう大変だけど、露出の過不足で色が濁ったり転んだりしないモノクロなら、それでもなんとかなるのである。
 もちろん半世紀も前の旧いカメラだって、ちゃんとカラーフィルムは使えるし、露出を外さなければ最新の機種に見劣りしないアガリが手に入るものもある。でもそれは大昔のクルマで都心の盛り場に繰り出すようなものだ。端から優雅に見えても、運転操作には今のクルマの数十倍の努力と注意力が必要だし、もし路上でエンストしても機械を責めるべきではない。もともとそういう環境を意図してつくられていないのだから。

 まあクルマと違ってカメラは人命に関わるような事故は起こさない(と思う)から、どんな使い方をしようとオーナーの自由ではある。でももしもあなたが旧いカメラを持っていて、それがシャッター速度や絞りを素早く正確に設定できないために失敗が多かったとしたら、いちどモノクロフィルムを詰めてみるといい。高度経済成長いぜんのガラ空きの道路を流すように、ゆったりとしたリズムで写真が撮れるはずだ。
 撮影はそれで良いとして、残る問題は「アバウトな露出を与えたフィルムをどうにか観られるようにする」暗室作業だけど、現代のテクノロジーは私たち旧人類を見放してはいない。あなたが今この記事を読んでいるパソコンにレタッチソフトをインストールすれば万事解決、面倒な薬剤の調合や温度管理や家族の苦情や廃液の処理に悩む必要もない。さあ、今すぐお電話を(深夜ですのでおかけ間違えにご注意ください)。
 なに、旧いカメラも最新のソフトもあるけど、モノクロをレタッチする方法がよくわからないって? 大丈夫、とりあえずデジカメで撮った絵から色を抜いて練習しましょう。やってるうちになんとかなるもんです、多分、いやきっと。

*注1:オートブラケット=最新の一眼レフカメラなどに多く備わる「自動段階露出システム」のこと。露出決定が難しい条件で「迷ったら抑えに前後の露出も撮っておきましょう」という保険勧誘員のような機能である。1/3段〜1/2段刻みの微妙な露出差を重視するプロの要求に応えるものだが、ネガフィルムでこれを使ってもあまり意味がない、という事実がカタログや取説に謳われていることは稀。

**注2:フィルムのパッケージにはたいてい「天候や昼夜別の絞りとシャッター速度の推奨組み合わせ」が記載されている。通常のネガカラーやモノクロを使う限り、これを守っていればちゃんと立派に写真が撮れる(もちろん適性露出で撮るに越したことはありません)。


2003年12月03日掲載

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