* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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先週の二枚の画像、右下部分を拡大(上エルマリート、下オリオン)。両者の違いは点光源の描写にあって、エルマリートが画像の端まで真円を保つのに対し、オリオンは同心円方向(=サジタル方向)に彗星のように尾を引く。これはコマ収差が多く残っているためで、トポゴン型ではこの収差補正が難しいらしい。
Leica M3 + Elmarit-M 28mmF2.8 / Orion-15 28mmF6 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/15sec. F5.6+1/3



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ただしトポゴン型レンズが実用上不便に感じるのは開放値が暗いことで、それ以外はさほど支障を感じない。コントラストのある被写体を選べば、描写もけっして悪くない。周辺減光も表現に積極的に採り入れれば良いと思う。
Leica M3 + Orion-15 28mmF6 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/15sec. F6



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オリオン15の純正組み合わせ。先週のM3と比較して、レニングラードが大柄なボディを持つことがわかるだろう。装着した外部ファインダーはツァイス・イコン製を模したロシア製で、28/35/50/85/135mmの5つの焦点距離に対応する「ターレットファインダー」。安直なアイデア商品みたいだけど、ファインダー像の「見え」はたいへんクリア。ちなみにロシア製のRF用交換レンズは上記の5焦点以外に20mm(ルサール)とフェド用100mmが存在する。

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『クラシックレンズの修辞法 #2』


 リヒターが1935年に造った初代トポゴンは、先のハイパーゴンの内側にさらに対になるメニスカスレンズを組み合わせたものだ。これは球面収差を格段に改善し、その結果としてレンズは飛躍的に明るくなった(焦点距離はハイパーゴンと同一の100mm、口径比はF22に対しF6.3まで改善された)。レンズの構成枚数を増やして明るくなるというのは解せない気もするが、そこが光学技術の深遠なところである、としておこう。ちなみにレンズ名は地勢学を意味するトポロジーから来ている。
 この初代トポゴンは航空測量用の特殊レンズだったが、これをそのままスケーリングして35mmカメラ用とした製品が二代目トポゴン、焦点距離と口径比はそれぞれ25mm・F4となった。今ではありきたりのスペックだけど、このレンズが登場した20世紀の半ばには驚異的な「超」広角レンズだったようだ。
 特殊な用途を意識した先代に対し、二代目は普通のカメラ(コンタックス・レンジファインダー機)に装着して、わりと普通に使うことができた。といっても高価で生産数も少なく、使えるのは一部のお金持ちと職業写真家に限られていたようだが。
 ちなみにこのレンズ、日本では日本光学(現在のニコン)がほぼそのままの構成で製品化し、他にもいくつかの国でスケーリングモデルが生産された。今回使ったオリオン15は旧ソ連製で、焦点距離を28mmとしたのは生産性を意識したのだろう。曲率が大きいトポゴン型のエレメントは、直径が小さくなるほど研磨が難しく、量産に向かなくなるからだ。では開放値が暗めなのは? これにはちょっと面白い理由がある。
 実はオリオンの開放F値は、本来の口径比より暗い。F6となっているのは絞りが完全に開かない構造のためで(ストッパーで規制している)、このレンズを分解したひとの話によると開放F値はF2.8とF4の中間らしい。なぜそうなっているのか、おそらく周辺の画質低下を嫌ったためだと思う。ロシア人にも生真面目なひとがいるらしい。

 歴史的な背景はこのくらいにして、旧ソ連製の逸品・オリオン15を例にトポゴン型レンズの描写をみてみよう*。出自が航空測量用だけあって、歪曲がほとんど無いのはさすがだが、光学的な欠点もすくなくない。画面中心の解像度は必要充分だけど、そこから周辺に行くにしたがって画質は徐々に低下する。これは大きな画角を曲率の大きい(=屈折率の高い)エレメントで得ているためで、歪曲以外の諸収差が完全に補正できないからだ。左の画像の1枚目で見られる「コマ収差」などはその好例である。
 トポゴン型はまたコサイン4乗則**といわれる法則の影響を避けられず、周辺減光は大きめだ。実はトポゴンはこのあたりの弱点を克服できずに消えたレンズであって、その複製もなかなか難儀な物品なのだけど、それを巧く使うのがクラシックレンズの愉しみ方かもしれない。ということで、使いこなしの知恵は次回にて。

*注1:本家ツァイス製のトポゴンは現在もかなり高価で入手が難しいが、オリオンなら格安で手に入る(ただし流通量はそれほど多くないので根気よく探すこと)。両者の画質を比較したひとによると、それほど大きな差はないらしい。どちらも個体差があるという話もよく耳にするので、購入時には注意が必要。

**注2:画面周辺の光量が半画角のコサイン4乗分だけ低下する法則を「コサイン4乗則」という。これは写真用レンズだけでなく望遠鏡や照明などにも適応される法則で、一般に画角の大きいレンズ(=広角レンズ)ほど、またレンズ構成の対称性が強いほどその現れ方が顕著とされる。


2004年02月11日掲載

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