* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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雪を蹴立てて疾走するD51。鉄道ファンならこういう背景では撮らない筈、と思ったら周囲には三脚が林立していた。
Voigtlander Bessa-T + Orion-15 28mmF6 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/125sec. F6



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実はクラシックレンズでSLを撮りに行ったのではなく、温泉に浸かりに行ったのです。
Voigtlander Bessa-T + Orion-15 28mmF6 FUJICOLOR NewPRO400 (PN400N) Exposure Data:1/60sec. F8



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4月より「スクエアフォーマット」編がスタート。
名機ハッセルブラッドからチープな目測カメラまで、正方形構図カメラの魅力を探ります。
ただ今準備中、ご期待ください。

東京レトロフォーカス Special Edition
『クラシックレンズの修辞法 #4』


 旧いレンズを現代のそれと比較して、誰もがわかる違いはなんだろう。「解像力」というひとが多いと思うけど、これはかなり拡大率が高くないと目につかない。リバーサルを4倍くらいのルーペで見たり、サービスサイズのプリントで見てすぐに差がわかるようなら、そのレンズは余程のものだ。
 瞬時にわかる両者の差は、たいていコントラストと発色に出る。旧いレンズはおおむねコントラストが低く(例外もある)、渋い発色でヌケが悪い。この表現は誤解を招きそうなので言い換えると、やや濁った色になることが多い。旧いレンズの発色はイエローが強く、これはレンズが黄変している場合もあるけれど、多くはデフォルトではないかと思う。1950年代以前の写真術では、カラーフィルムの使用は一般的でなく、その色再現も現代とは雲泥の差があったからだ。
 さてそこで。こういうクラシカルな描写のレンズをどう使うかだけど、本来はそのままの写りを愉しみたい。現代的な描写のレンズは身近にいくらでもあるではないか。と、達観したことを書きたいところだけど人間は我が儘なもの、古典レンズでもモダンな描写が欲しくなることもある。友人が買った全自動機(これじゃあ洗濯機みたいだ)を太古の機材で打ち負かそうと、かなり無謀なことを企むひともいるだろう。
 で、そういう向きにお勧めしたいのがフィルム選びである。ちょっと描写が甘いレンズには最新のリバーサルフィルムを詰めて、ついでに1段くらい増感して撮る。いささか邪道だけど、これでコントラストはかなり向上するし、見かけ上の精細感も出せる(写真を趣味にしているひとでも混同していることが多いのだけど、ほんらいシャープネスとコントラストはまったく別の要素だ)。
 黄色味が強い発色についても、フィルムの選定で克服できるだろうか。これは難しいけど、アウトプットがプリントなら手焼きの指定でかなりのところまで補正は可能だ。といっても、もともと着色されているわけだから完全な補正は困難だろう。スキャンしてレタッチすれば話は別だが。
 より本格的にモダナイズを試みるなら、レンズの反射防止膜を剥がしてマルチコート処理するという手もある(一部のリペア工房で可能)。また撮影時にはフードを装着する、カメラボディが旧い場合は暗箱部分に内面反射対策を徹底する。暗箱ならぬ重箱の隅をつつくようだけど、こうした迷光対策を徹底したひとの話によれば、コントラストにかなり違いが出るという。

 そういう重箱の隅をつつく趣味がない僕の場合、旧いレンズやカメラはほとんど買った状態のまま、何も手を加えずに使っている。一部のレンズはグリスを入れ替えてあるけれど、描写性を変えようとは思わないし、レンズの新旧によらず常用フィルムで撮ることが多い。たぶん懐古趣味のせいだろう、普通に使って昔風の描写を愉しむ方が性にあっているのだ。
 オリオン15もけっこうよく使う。トポゴンの代用という意識はなく、薄いレンズで鞄に収まりが良いので仕事のついでのスナップにも重宝している。このレンズは最短撮影距離が1メートルだけど、F22まである絞りをいっぱいに絞ると、実は50センチから15メートルまでピントが合う。それでショーウインドウなどを撮って、歪まない窓枠に航空測量技術の恩恵をひそかに感じたりする。
 そういえば東西冷戦の時代に活躍した米国のスパイ飛行機には、スイス製のレンズが載せられていたらしい。当時のスイスでこの種のレンズを造る会社はヴィルト社ただひとつ、その設計主任はほかならぬツァイス出身のルードヴィヒ・ベルテレだった。彼はこの会社でアビオゴンという傑作レンズを生み出したのだけど、その前群と後群にはトポゴンにうり二つのメニスカスレンズが組み込まれていた。
 自分の手のひらにスパイ機のカメラの祖先がある。そんなことを考えながら旧いレンズを使うのも、けっこう愉しいのだった。


2004年02月25日掲載

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