* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


写真
---> 拡大表示

国産カメラには和風のモチーフを、ということで浅草に出掛けてみた。ただしこの日のレンズは東独製、できればフジノンの35mmF1.9あたりで撮りたいところ。
FUJICA ST605 + Carl Zeiss Jena Flektogon 35mmF2.4 FUJIFILM Neopan400 Presto Exposure Data:1/250sec. F4



写真
---> 拡大表示

台湾から観光でやって来たという母子。カメラを向けて「撮っても良いですか」と訊くと笑顔で応えてくれた。多謝。
Pentax ESII + VEB Pentacon 29mmF2.8 FUJIFILM Neopan400 Presto Exposure Data:1/250sec. F4



写真
---> 拡大表示

フジカST605とペンタックスESII。両機のボディサイズはこのように大差があって、これはST605がオリンパスOM-1以降の小型化ブームを背景に設計されたため。軍艦部に配された操作部材はほぼ同一、ただしレリーズや巻き上げの感触はかなり異なる。シルキーなクロームメッキと艶やかなブラックペイントは、現代のカメラにはなかなか望めない上質な仕上げだ。

東京レトロフォーカス Special Edition
『ちょっと旧い国産機を使ってみよう #4』


 フジカST605はちょっと地味だけどなかなか良いカメラである。コンパクトな外寸に必要最低限の機能を詰め込んだという雰囲気で、手に持ったときの操作も無理がない(これより小さなカメラは大人の男性の手にフィットしないと思う)。ゆいいつ巻き上げレバーのストロークは過大だけど、後にお会いした設計者によれば「小型化のためにかなり苦労した」そうだから、やむを得なかったのだろう。
 問題のSPDを使った露出計の動きは流石に俊敏で、すぱっと迷わず指示値を表示するさまは見ていて気持ちがイイ。ファインダースクリーンも明るくキレが良く、ピント合わせも楽にできる。ただしこちらはペンタESIIと違ってAEは内蔵しておらず、マニュアルの露出設定はSPDの長所を生かし切れていないところがある。
 ならばAEを積んだシリーズ上級機、ST901あたりはどうか。と、好奇心と物欲は際限なくふくらんでいくのだけど、僕のM42ボディは今のところここまでで止まっている。他に優先的に探す物品があったためと、ESIIが故障してしまったので(ミラーアップしたまま復帰しなくなった)そちらを直すことを優先したためだ。
 実はESIIの修理は、正規のルートでは受け付けていない。国産カメラは製造完了後およそ十年を経過したあたりでサービスセンターは対応を終えるのがふつうで、これは機能部品の確保からやむを得ない措置なのだそうだ。電子回路を積んだカメラの難しさはこのあたりにあって、機械式カメラは半世紀や一世紀前のものでも直しながら使い続けることができるのに対し、電子カメラは部品が払底したらそこで役割を終えることが多い。
 まあペンタやフジカのように機械式シャッターを積んだカメラは、エレキが飛んでもシャッターは切れるから、完全マニュアル機として延命させる手もある。だから70年代頃のカメラに「修理不能」のリスクを承知で手を出すのは、そう悪くない選択かもしれない。文鎮になるまでにはまだまだ使えるからだ。
 幸い、僕のESIIはさるペンタックス・スペシャリストの工房にオーバーホールをお願いすることができた。併せて腐食していたプリズムも交換していただいたので、手元にやってきて以来最良のコンディションで動いている。スローな露出計指針の動きは相変わらずだけど、これもこちらのペースを合わせれば済むことだ。

 この原稿を書きながら三台のボディを眺め、手にとって実感するのは、70年代という時代の輝きである。鋭利な彫刻を思わせるSPIIの軍艦部プレスの切れ味、深みのあるESIIのブラックペイント(恐らく職人の手になるラッカー塗装)、そしてST605の美しいサテンクロームメッキ。それらは今の時代にはなかなか望めない仕上げ*で、カメラが贅沢品であったころの名残りとも思える。ひょっとして、この時代の国産カメラを正当に評価できるのは、ものの分かった海外のコレクターではないのだろうか?
 ちょっと旧い国産カメラ、機会があればコンパクトカメラなども採り上げてみたい。そのジャンルも優秀で個性的な物品の宝庫である。



*注:現代のカメラのブラックペイントは電着塗装が主流のようで、塗膜の強度と均一性には優れるものの、ラッカー塗料をスプレーガンで吹き付けたような風合いは出にくい(これは旧い英国車などを所有される方ならお分かりいただけるだろう)。またシルバークロームについても、重クロムなどを使用したメッキ仕上げは公害防止の観点からすでに行われなくなって久しい。フジカSTボディのそれはかつてのM型ライカに匹敵する見事さである。


2004年03月24日掲載

<--Back     Next-->



Webmaster :
ammo@tokyo.fujifilm.co.jp
Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部